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「二村。那須川が変になったのはコイツが原因じゃねぇかと思う」
「オンナ?」
「いや、ガキ。ヤンキーみたいな」

 五藤は携帯電話で撮影した写真を二村に送った。
 那須川と仁介が共に買い物し、食事をテイクアウトして隣を歩く様子の動画もある。連まない那須川の意外な動画に二村はぽかんと口を開けた。

「スマホで撮影した割にはっきり仲良し感だね。……那須川……アイツ、ホモだったのかな?」
「んな事、どうでもいい。どうせ那須川とは切れたんだ。だけど、まだゲーム配信は続けたいだろ?」

 二村は少し悩んでから頷いた。たしかに楽しいし、他の人も楽しんでいる。視聴料も入る。那須川の出資が減る分、しょぼい報酬になるが金が欲しいクズはそこら中にいる。

「俺たちだけでやれる?那須川の不思議な技術みたいなのが必要じゃね?」
「貰うんだよ。あのネクラ野郎から。……このガキさらって、引き換えにさ」
「……応じるかなぁ?」
「偽造免許とかのやり方や道具も頂こうと思う」

 ニヤリと笑う五藤に、二村は俯いた。
 そんなにムキにならなくてもいいのでは?と思っていた。那須川はやめたいと言った。それならばやめてもいいと思う。
 たしかに楽しみは減るが、十分楽しいキャンパスライフは常に送れている。
 関係を拗らせて、この充実している日々を無事壊したくないと考える二村は控えめに言った。

「……那須川はほっとけば?」
「はぁ?ナメられて、言うこと聞けるかよ。あんな陰キャにさぁ!」

 熱くなっている五藤に、これ以上言えずに二村は黙った。

「ちょっとビビらせたら、すぐだよ。イキがって派手な髪にしたりしててもさぁ、喋り方や視線がザコじゃん。ちょっと痛い目みりゃあいいよ」

 どこか楽しげな五藤が二村の背中を叩く。
 考える事や自分の意見を押し通せない二村は、口元に笑みを浮かべて頷いた。

 






 那須川は学校の帰りにコンビニで夕飯用のパンを二人分買い、オートロックのマンションへ帰宅した。部屋は静かで、玄関に仁介の靴はない。

「水曜……か」

 仁介が金を貸しに出るのは水曜と金曜、時々日曜だった。ヤクザ絡みの裏賭場と知ってあまり気持ちは良くないが、仁介は楽しそうだった。
 那須川はたくさん話しかけてくる彼の様子を思い出して、小さく笑った。いつも決まった人間の名前から、友達のような者がいる事も知る事が出来た。
 自分よりよっぽど社会に溶け込めている気がする……と呟きながら適当な部屋着に着替え、パソコンを立ち上げた。

「……ん?」

 珍しくパソコンにメールが来ていた。
 那須川は知っているアドレスに胸がビクッと縮まるのを感じた。五藤だ。

「なに……」

 警戒しながらメールを開くと、動画が添付されていた。
 那須川の、いつもだるそうな目が見開かれる。

「じ、ん……?!」

 その動画の真ん中で、仁介がどこかホテルのような部屋のベッドに座っていた。
 驚くことに、彼は青い襟とスカートのセーラー服を着ていて、長い黒髪のウィッグを着けられている。それでも、ひと目でその女装している人間が仁介だと分かった。
 普段は坊主頭だが、整った顔の彼はなかなか美人だった。那須川は頭の端から端までハテナでいっぱいだったが、動画が進むに連れて表情を曇らせた。

『那須川ぁ?このコを無事に返してほしかったら、配信技術や報酬管理、偽造IDのやり方を渡せ』

 動画の端で後藤がニヤニヤしながら喋り始めた。
 ベッドに座らせされた仁介は、手首と足首が左右それぞれビニール紐で縛られていて、動きを制限されている。口にもガムテープが貼られていて、誘拐されたのだと察した。
 那須川は恐怖に手が震えている。

『コイツ、変態なパンツ吐いてるし、お前らホモか?いいよなぁ、女と違って妊娠したりする心配ねぇもんな?……俺たちもズコバコさせてもらおっかなぁ〜』

 五藤が仁介の太ももを撫でると、彼は『うぅ"ー!!』と威嚇するように唸って首を横に振った。
 顔は赤く、震えているのが見える。様子がおかしい。

「じん!!……ここ、どこだよ……」

 動画に映る景色だけでは分からず、那須川は悔しさから机を叩いた。
 しかし、分かったところで助けに行ける度胸も腕力も自分にはないことが先に立つ。那須川は唇を引き結び、携帯電話を手に取った。
 五藤へ電話をかけると、それはすぐに繋がった。

「五藤……!なに、……アレ!!」
『交換して欲しくて。××ホテルのロビーに取り敢えず現金500万持って来い。配信に使ってたノートパソコンと、ID作る時の道具もな』
「いや、って……言ったら?」
『はぁ?そん時はこのガキとバイバイな。さっき薬使ったし、二村と三人でキメセクしよっかなぁーってトコロ。ぶるぶる震えちゃって、女装させたらそれなりに可愛いしね!』

 あははは!と笑う五藤の声を遮るように那須川は電話を切った。手にした携帯電話を握り締め、動揺を隠せず涙が滲んだ。

「じん……!けんか……強いはず、なの……に……」

 男ふたりに不意打ちされ、薬物を使用されたのなら、あの強気の仁介が捕まってしまった事にもなんとなく納得できてしまった。
 那須川は自分が今まで売ってきた薬で、同じような目にあった人がいるかもしれない……そう思って両手で顔を覆った。
 自業自得。そんな言葉が脳内を占める。
 自分が思っていた以上に、仁介が大切だとわかる。酷い目に遭わされるかも……もうすでに遭っているかも……そう思うと涙が溢れてきた。

「た、た……助け、なきゃ……!!」

 ホテルは分かった。用意するものも出来る。
 那須川は現金と持てる道具全てを紙袋に押し込み、転びそうになる程慌てて部屋を出た。

「じん!」

 タクシーを捕まえて、那須川は心の中で仁介の名前を何度も唱えた。








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