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那須川は珍しく自分から二村と五藤を呼び出した。
「那須川ぁ。どうした?」
「珍しくね?お前から呼び出しとか」
校舎から少し遠く、人気のない喫煙所の一角で待っていた那須川は、二人を見てイヤホンを外した。
二村はいつものように馴れ馴れしく那須川の肩に腕を回して、甘えたように名前を呼んだ。
少し言葉を考えるように黙ったままふたりを見据え、小さく息を吐くと告げた。
「もう、あのゲームは……終わりだ。僕は……準備……しない」
二村も五藤も、『はぁ?』と揃って怪訝な顔で那須川を見つめた。後藤に至っては睨みつけるように目を細めた。
「いきなり?なんで?」
五藤は那須川に詰め寄る。二村も驚くほど低く怒気を含んだ声だ。
「ゴトっちゃん!そんなマジに怒らなくても……」
「いやいや、お互い秘密でやってんじゃん?賞金引いても結構な視聴収入よ?これから会員を増やそうかってときじゃん」
チャラい二村は五藤の圧に呑まれて押し黙り、チラッと那須川へ視線を変えた。眉を寄せて、困った顔で。
「もぉ、那須川さぁ、突然過ぎてゴトっちゃん怒っちゃってんじゃん」
「……やらない。もう、飽きた……から」
俯き気味の那須川がふと顔を上げて二村と五藤を見据えた。
普段視線を合わせない彼の眼差しにふたりは一瞬黙ったが、五藤は引く気がない様子で視線を強めた。
「勝手過ぎ。なら、俺だって勝手するよ?」
目を細めてポケットから小さなジップロックを見せた。
二村はおどおどとふたりを見比べ、口を挟めずにいる。
「コレ、那須川が売ってる薬だろ?学校にバラそっか」
「証拠ない……よ。……裏アカ、だし……割とすぐ……消してる、から」
「コレが証拠だろ」
「僕……に、繋がらない」
珍しく反抗を続ける那須川に、五藤は舌打ちをして背中を向けた。喫煙所を離れて行く。
二村も、そんな五藤を慌てて追った。
「…………はぁ、怖かった……」
那須川は大きく息を吐き出し、止まりそうになっていた呼吸を再開させた。ふたりの姿が見えなくなっても、足は動かず暫くひとりその場に立ち尽くしていた。
先日のことだ。
仁介が塞がりかけている手の怪我を見せてきた。まだグロテスクさの残る銃傷に、相変わらずニヤリと口元に笑みを作ってカッコいい!とでも言いたげな様子で。
彼は驚くほど強く、前向きだった。
髪も短いからと、ひとりでシャワーを浴び、器用にガーゼや包帯を新しいものに変えた。
手伝うと言えば嬉しそうに『ありがとう』と応じるが、自分から『やってほしい』とは言わない。
那須川は、彼が無意識に強い人間だと感じた。普通、手に穴が空いて笑える訳がない。
今までにも自分の満足のために仁介のような人間で『遊んだ』と思うと罪悪感が押し寄せてきた。たまたま仁介は前向きだが、もしかしたら今までの何人かはどこかで野垂れ死に、ニュースになっているかもしれない。
仁介を見ていて、那須川はダメだと痛感した。
自分の日々の刺激のために誰かを傷つけるのは違うと、どこかで分かっていたのにやめなかった。ちゃんと終わらせたい。
なめられないように銀髪にして、適当に楽しんで、薬を売ったり、偽造IDを作ったり、他人のことはどうなろうと考えたりしなかった。
那須川は震える拳を握り締め、顔を上げた。サラッとした髪が揺れる。
「じんみたいに、カッコ良くなりたい……」
詰まることなく己の口から溢れた決意をぐっと噛み締めた。
*
「なぁ、那須川の髪はなんで銀なん?」
「……なんとなく。誰かと……被らなければ……よかった……だけ?みたいな」
ローテーブルに置いたパソコンに向けていた視線を仁介に変えて、那須川は微かに首を傾げて見せた。
那須川の頭をまじまじと見つめ、手を伸ばして毛先に触れた仁介は口端を上げた。
「俺もこういうのにしたい!」
「……すれば?」
「……どうやってんの?」
目を丸くする仁介に那須川は鼻で笑った。彼は貧乏な家庭だった。友達もいないし、携帯電話も最近やっと手にしたばかり。
調べたらいい……というのは簡単だが、那須川は考える前に言葉が出ていた。
「僕が……やって、あげても……いい。それか……」
自分の利用している美容院を紹介しようか?と続けようとした那須川はやめた。
嬉しそうな仁介の笑顔に、胸がふわりとした。俯いて、人を観察して、一歩引いていた那須川のテリトリーを少しずつ曖昧にする仁介。
決して強引には入って来ないのに、すぐそばで存在感を示す彼を、気付けば受け入れている。
「何色……が、いい?」
「秋日みたいにカッコイイやつだな」
さすがに同じはイヤ……と那須川は言って、ヘアカラーの画像をタブレットに表示させて仁介に渡した。
仁介はパッと見てすぐに『じゃあコレ!』と金髪を指さした。
「金貸し……が、金髪って……チャラっ」
「だって、秋日と一緒はダメなんだろぉ?んじゃ、コレだろ」
那須川は短絡的な仁介に呆れながらも、ディスカウントストアに彼を誘った。
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