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※ 拍手のお礼用でした。いつものごとく夏祭り。
夏の恒例になりつつある、商店街の夏祭りに今年も参加する事になったアルシエロ。昨年と同じく噴水広場はお酒と軽食の店が出張し、賑わっていた。
想は時折人混みに目を凝らしながら、ジョッキへ生ビールを注ぎ、戻ってきたジョッキを洗い、設置された冷凍庫へ押し込めていた。
「落ち着きねぇな。どうした?」
インカムで注文を受けながら島津がキョロキョロしている想に声をかけた。想は『ん?』と島津を見つめる。
「誰か探してんの?」
「……漣が来るかなって……来てってお願いしたけど、はぐらかされたから来ないかな……」
「来ねぇだろ。お前がここにいて、ひとりで来るのとか想像できねぇ」
「……ももちゃん来たじゃん」
「ももは浴衣姿見せに来ただけだろ。友達と花火までぶらぶらするって。あー可愛いかったわ、マジで」
思い返すように目を閉じた島津に、想は笑った。仕事で動けない島津の為に、自分の浴衣姿を照れながらも見せに来る可愛さ。思い出すと想まで照れてしまう。
「ももちゃん、島津のこと大好きだね」
「想くん、新堂さんのこと大好きだね」
島津はからかうように言って、サワー用の樽を交換しながらケラケラと笑った。
言われて、想はほんのり頬を染めて俯いた。
「はは。ウケる」
「っ、うるさい」
「うーわ!うーざ!あつー!想くんも島津もくたばれー!」
甚平姿の蔵元が掌でパタパタと仰ぎながらテントにやって来た。今年は商店街一同、甚平着用の祭りムードだ。
蔵元が幸せモードのふたりに悪態を吐いていると、想は輪切りレモンを入れた冷えた炭酸水を渡した。
「オーダー役代わるよ。今年はドリンクチケット制で現金少ないから楽だね」
「でも、去年より動員数多そうって肉屋のおっちゃんが言ってたー!後で牛串たくさん持って来てくれるってよ。やった!」
「今年はデカい花火、何発も上がるっつー話だけど。若林さん張り切ってたろ?」
「うん。やる気満々おじさんだったよ」
想は蔵元と代わって外に出た。インカムを付け直し客席の方を見ると、新しく席に着いた客が手を上げている。想は人混みを上手に擦り抜けてオーダーを取りに向かった。
「今年はキュートな藤井ちゃんがデートでお休みだから目が……目が物足りながってる!可愛い女子のお尻が見たい!」
「……ダチだから言うけど、声に出すな」
「ナンパをしに行かないと……想くん連れて行けば2、3人釣れるだろ……」
先ほどの想とは違う意味でキョロキョロし始めた蔵元の脇腹に、島津は親指の突きをめり込ませた。
小さな悲鳴と共に蹲った蔵元を睨み付けるように見下しながら、島津は低く唸った。
友達でも恐怖を感じる威圧感に、蔵元は恐る恐る顔をあげる。
「仕事しねぇとナンパ出来ねぇ顔面にしてやるぞ」
ごめんなさい…と蔵元は涙目でふらりと立ち上がり、バイトの西室が戻しに来るジョッキを洗う為にグラスウォッシャーのスイッチを入れた。
「あ、有沢。逆ナンされてんな」
「待ってよ、嘘でしょ!?」
「あいつなんでか知らんがモテるからなぁ」
「くやしい!イケメンめ!」
「その悔しさをバネにグラスを洗え」
「島津の鬼!」
オーダーの酒類を運びに戻って来たバイトの西室は、蔵元の様子に吹き出すほど笑った。
*
20時になり、公園広場の時計が鈍い音を鳴らした。商店街の古い放送機から『打ち上げ花火がはじまります』とアナウンスが流れる。照明を半分に落とすと注意され、辺りは期待にざわめいた。
一方、想はお酒を運び終え、次の注文が途切れた為一旦テントの方へと向かった。島津が手を上げ、想が返す。蔵元の恨めしい視線に首を傾げた想の肩に、不意に腕が回された。
「ッー!!?」
人混みの気配に紛れ、触れられるまで気付かなかった想は一瞬身体を強張らせた。だが、感じ慣れた香りに相手を確認もせず抱き着いた。
「漣……!」
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