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ソファに浅く腰掛けた那須川の股間に顔を埋め、仁介は熱を持たない彼のペニスを口に含んで舐めていた。
「……ね。俺、勃たないんだ……」
「マジか……驚き」
濡れた唇を拭い、仁介は床に座ったまま那須川を見上げた。
「俺、チンコが使えようが使えまいが、那須川の事好きだ。那須川が何考えてんのかとか、俺の事どう思うとか、よく分かんねぇけど、俺は好きだから」
まっすぐに、自分の気持ちだけを口にする仁介を見下ろし、那須川は頷いた。
「……僕も、じんは特別だと思う……かな。ウソとか……言わないじんが……カッコ良くて、好き……かも」
『かも』と言ったにもかかわらず、嬉しそうにつり目を細めて笑う仁介の顔を、那須川は切なげに見つめた。
『特別』。まさにそれだった。こんなにそばに置いておきたいと思った人間はいない。
楽しい事も、そそられる事もなく、毎日退屈だと思っていたのに、仁介が来てからは少し楽しいと感じていた。
駆け引きや裏表がなく、誰かを下に見ていない仁介はそばにいて落ち着く。
『刺激が欲しい』と思っていたのに、『刺激』だと思った相手は思った以上に居心地のいい存在だった。
ぼんやりと仁介の頭を見下ろしていた那須川は、再びペニスを舐め始めた彼の髪を撫でた。
「刺激のあること……したら、勃つかなって……」
「あ?あぁ……この間やらされた金取りゲーム?あんなんしょっちゅうやってんの?」
「人が……追い詰められてるの見て、……ドキドキする……みたいな」
「あ〜?意味不明。なんか原因があんじゃねぇの?俺はよく分かんねぇけど」
「………………」
「俺のエロいトコみたら勃つかな?」
「は……?」
仁介は那須川の怪訝な眼差しにニヤリと笑ってみせると立ち上がった。ふにゃチンをしゃぶっていただけで立ち上がっている下腹部をいやらしく指先で撫でながら、ソファに座る那須川へ見せつけた。
「俺はガチガチだ」
言い終えると唇を舐めながらベルトを緩めた。ゆるいサイズを好む仁介の腰から、滑るようにパンツが落ちた。現れた下着は那須川の想像していたものと違い眉を寄せた。
ペニスと陰嚢を覆う前側の布は狭く、後ろは紐のようなTバックになっていた。狭い布から、立ち上がったペニスが顔をのぞかせている。
「何……このへんな、パンツ」
「ん……那須川の舐めてたら、勃っちまった……」
俯き、微かに視線だけを那須川へ寄越した仁介の表情に胸がドキッと高鳴った。
仁介の普段の様子とは違い、男を簡単に誘惑できそうな色気が滲み溢れていた。
「那須川……」
仁介はソファの那須川に背中を向け、小ぶりで良い形の尻を撫でながら腰を回した。
「那須川の……チンコ、欲しいな……」
言いながら、仁介は那須川の膝に座った。
ビクッと身体を強張らせた那須川だが、自然と仁介の腰に手を伸ばした。
「う、……ぁっ、なす……かわぁ……ッ」
仁介は那須川の指が己の腰を強く掴むのを感じて身体を震わせた。尻に触れるペニスは萎えたままだが、彼の興奮が微かに感じ取れる。
「なすかわぁ……名前、呼びたい……」
「秋日。しゅーか……だよ」
『可愛いの』と、仁介は微かに振り向きながら口元に笑みを浮かべた。それから下着をずらしてペニスを完全に出すと、那須川の手を導くようにそこに触れさせた。
他人に裸を見せたり、ましてやペニスに触れるなど考えた事もなかった那須川だが、不思議も嫌悪は無く、逆に触れただけで艶かしい息を吐く仁介の姿に心臓が速くなった。
「ふ、あ……ッふぅ、ん……ごしごしって、して……ッしゅーかの、好きにッ……」
仁介はペニスを握る那須川の手に腰を押し付けるように揺らし始めた。不安定な膝の上で腰を振りながら自分の指を口へ突っ込み、舐めしゃぶる。わざといやらしい音を立てて、時折那須川の反応を伺うように後ろを見やる。
那須川の手がぎこちなくペニスを擦り始め、仁介は身悶えた。
「んぁっ!すご、い……秋日、じょーず」
腰を揺らめかせながら唾液に塗れた中指を自分のアナルへ押し込み、仁介の腰がビクッと跳ねた。
那須川は少し驚いたが、仁介はすぐに薬指も追加してぐちょぐちょと掻き回し始めた。
『俺、那須川が好きだから那須川とエッチしたいんだけど』と迫られた記憶が那須川の脳裏をよぎった。準備していたに違いない。
「じん……ごめん、ね……」
「はぁ?謝んなよ。手、すっげぇイイ……もっと、先っぽ擦って、強くしても、いいから……ッあぁあっ!!!穴ぁっ!き、きもちぃ……こしこしって、してぇ……しゅ、か」
那須川が仁介のペニスの尿道を強く押して指先を動かすと、仁介はだらし無く足を開いて快感に酔った声を上げた。
その姿に喉を鳴らし、那須川はグイッと仁介の身体を引き寄せた。足が宙に浮き、完全に背中が那須川に抱き込まれる。アナルの指の角度が変わり、仁介は背中を反らせた。激しい快感に眉を寄せ、ペニスがビクッと跳ねる。
ビュッと勢いよく、射精した仁介は那須川に身体を預け、快感の余韻に腰を揺らした。
「秋日の手……きもちぃい……」
「……じん、エロすぎる……」
普段、目つきが悪くガサツな仁介のギャップに、本音が漏れた。
那須川の肩に後頭部を預け、微かに口元に笑みを浮かべる仁介の顎を掴み、唇を塞いだ。角度的に辛いのか、仁介が苦しげに呻いたが、那須川は舌を絡め、逃げそうな唇を覆う。
少し経つと、仁介から抵抗がなくなり、夢中でキスに答え始めた。その間も揺れる腰に、萎えたペニスが触る。
那須川はゆっくり唇を離した。
「……ごめんね」
胸の奥がチリっと焼けるように感じる。那須川はこの時初めて確信した。
仁介を抱き締めて、自分で気持ちよくしてあげたいと思うのは『好き』と言うことではないかと。他人に夢中になる事などないと思っていたし、恋だ愛だなど、くだらないと思っていたが、仁介に対して燃える心の奥の痛みは、きっと『好き』だろう。
那須川は仁介の首筋を舐め、キツく吸い付いた。
一瞬の痛みを訴えた仁介だったが、すぐに笑って那須川に向き直って座った。
「インポの原因は自覚あんの?」
「……まぁ……」
「……話したくないなら、いいけど。話したら楽になるよ。これ、経験な」
「俺より年下の……くせに」
那須川が微かに眉根を寄せると、仁介は対照的に笑った。
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