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 ガドに少し余裕が生まれ始めたのは月が高い位置に来た頃だった。
 夕刻前ほどに肌を重ね始め、長時間の激しいセックスによりティエルは何度か気を失っていた。
 ガドは、体調も万全ではなかったティエルの様子を確認するように顔をのぞいて唇を合わせた。ゆっくりとペニスを引き抜くと、吸い付いていたようにヌポッと音が響き、何度も中に出した精液が糸を引いた。やっと落ち着き始めたペニスを赤く腫れてひくつくアナルに擦り付ける。
 ティエルは脱力していたが、時折ビクッと何かに反応するように跳ねた。

「ティエル…ごめんね、無理させちゃった…ごめん…」

 薄く目を開き、微かに乱れた細い息遣いのティエルに謝りながら、彼の顎へ伝う唾液を舐めた。頬は赤く、涙に濡れていて冷たい。

「…、…」

 ティエルは朦朧とした意識の中でガドの名前を呼ぼうとしたが、喉が枯れて空気のような音が微かに漏れただけに終わった。
 ガドはそれに気が付き、ティエルを離さないように自分のシャツで包むと抱き上げた。細い身体を抱いたままキッチンでグラスに水を汲み、ティエルに飲ませようとするが反応が薄い。ガドは自分で水を口に含み、ティエルの唇を塞いだ。抵抗なく、水は少しずつティエルの口内へ流れて、微かに嚥下する様子を確認して唇を離した。
 三回ほどそれを繰り返し、ガドは怒られた犬のように眉根を寄せてティエルを見つめた。
 気づけば耳が無い。ティエルは震える指先で人間の耳に戻っているガドの頬に触れた。

「みみ…」
「みみ?」

 ガドは言われて初めて気がついた様子で自分の耳に触って、驚いたように目と口を開いてへんな顔になった。

「いつの間にか戻っちゃってる!」
「ふふ…」

 ティエルは変わらないガドの様子に微かに笑った。次第に身体に辛さが現れ始めたが、ティエルはそれ以上に満たされた感覚で重たい目蓋を閉じた。
 ふと、外が暗いことに気が付いたティエルは眉尻を下げ、弱々しい声を漏らした。

「ケリーせんせぇたち…帰ってくるかも…。…片付け、ないと…俺…たくさん、汚したかも…」
「だっ、だね!いや、殆ど俺が汚した!俺やるから!あっ、先にティエルを綺麗にしてから!井戸の水汲んでくる!休んでて!」

 ガドは夢中でティエルを求めてしまった記憶が波のように甦り、顔を赤くして慌てた。ティエルをソファへ優しく座らせ、水を汲みにそこを離れた。
 ティエルはすぐにソファの隅で意識を手放した。未だに中に出された精液がゆっくりと溢れ出して足に伝っていたが、もう何も考えられなかった。
 




 翌朝、朝日がのぼる頃にケリーとイリカラは二人で戻ってきた。エリは家族の元に帰れたに違いない。
 ホッとしたものの、ガドは芋を蒸してミルクを温めていた手を止め、ケリーに近づいて泣きそうな顔を向けた。
 
「ケリー…!ティエル、熱出てて、ずっと寝てる…どうすればいい?」
「あぁ、耳の怪我のせいかねぇ……………あ、そう言うこと?臭うと思ったら…無理させたの?」
「多分…ごめんなさいぃ…」

 涙を滲ませ、泣き出しそうなガドの頭をケリーはガシガシと撫でた。

「若いって怖いねぇ…。様子見てくるから、私の分も食事を頼むよ。イリカラは?」
「俺は食事は大丈夫。ガドくんのこと手伝うよ。ティエルの怪我どう?」
「…うん…心配…」

 蒸した芋から熱い皮を剥ぎ取りながらガドはぎこちなく答えた。
イリカラは眉尻を下げてしゅんと俯くガドの背中を優しく撫でた。

「俺のせいでごめんね。仲直りできて良かったけど、ティエルは頑固だから…たくさん話聞いてあげてね。時々、無茶したり…厳しいところもあるけど、それは甘えるのが苦手だからなんだ。ガドくんは逆に甘え上手に見えたから、ふたりはいい感じかも」

 温めたミルクをカップに注ぎながら、イリカラは仲の良い二人の姿が思い浮かび、顔を緩めた。昔からの友人を思う気持ちは優しく大きい。

「明日も、その次も、一緒にいる約束したよ」
「うん」

 イリカラは自分の事のように嬉しそうに笑った。

「あ、ガドくんたちの荷物もちゃんと預かってきたよ」
「うそ…あったの?!よかったぁ」
「宿は被害を訴えてたけど、ケリーがティエルの髪を綺麗に束ねて持って行ったんだ。それで折り合いをつけてもらった。ティエルの髪は長くて真っ直ぐで美しいから」

 昨晩、ティエルがエルフの姿を捨てたがって切り捨てた髪を、ケリーは勿体ないと言って大切に持ち帰っていた。それを思い返してガドは納得したように頷いた。

「ケリーはやっぱりすごい」
「価値のある長生きっていいね。最初は怖かったし驚いたし変なヘビって思ったけど、憧れる」

 ふたりはそろってケリーの姿を見た。長い舌を時折出し入れし、ティエルの具合を診るついでにと、傷のガーゼを新しくしていた。








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