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 ぶわっとティエルからの匂いが強まり、ガドは涎が垂れそうになり慌てて喉を鳴らした。獣化しそうになるほど、興奮してしまうティエルの良い匂いに誘われて、その唇を塞ぐ。
 横抱きにしたまま、しつこくティエルの舌を甘噛みし、舐め回す。全てを食べ尽くしたくなるほどの不思議な渇きに、ガドは何度も唇を合わせてティエルから酸素を奪うかのように甘く舌を吸った。
 ちゅッ…と音を立てて、唇を離した頃にはティエルはくたっと力が抜けた涙目で、真っ赤になってガドを見つめていた。

「はぁ…もっと、ティエルが欲しい」

 ギラつくガドの金の瞳に、ティエルは言葉を返せず唇を寄せてキスを返した。触れるだけの、優しいキス。
 ガドは細い身体を抱え直し、小屋のドアを足で開けた。パタンと背後でドアが閉まる音と、三人掛けのソファにティエルが座らされるのは同時ほどだった。

「ティエル…良い匂い…」

 ガドは何度もそう溢しながらティエルのシャツをはだけた。
 ビクッと反応したティエルはどうしてシャツのボタンを外されたのか分からず眉を寄せてガドへ尋ねるような視線を向けた。
 ガドはその視線に目を細めて返し、はだけた胸元に唇を触れた。舌を這わせ、へその上から喉仏までゆっくりと登る。

「っん、あッくす、ぐったい…が、がど…?」
「全部舐めるよ」

 首筋に舌を移動させながら低く囁かれ、ティエルは背筋が甘く震えた。以前のように触り合うと思っていたティエルは、明らかにガドの違う様子にハテナマークが頭に浮かんで消えない。
 交尾は同種と。雄と雌。
 自分たちの間で?とティエルは怖々ガドの首筋に指を這わせた。
 それにつられるように顔をあげ、ガドはソファに背中を預けるティエルと視線を合わせた。

「ティエルとセックスしたい」

 交尾ではないと、ガドの口がハッキリと告げた。
 ティエルを見つめる瞳が微かに細まり、口元が優しく笑う。ガドの八重歯に唇が引き上げられ、笑うと口角が愛らしくカーブを描いた。

「ティエルに俺の全部をあげたい。ティエルが大好きだ。…もう、離れられないよ」

 額が触れ合い、ガドの金の瞳に微かティエルの姿が映り込む。
 ティエルは息が止まった。
 ガドから溢れ出るフェロモンに酔わされていても、ティエルの頭の芯は冴えていた。
 自分がそうであるように、ガドもまた瞳に映る相手で胸がいっぱいなのだと伝わる。
 不思議と種の違いや性別などを考える事もなく、怖いとも感じない。
 ティエルはガドの両頬へ手を添えて微笑んだ。

「俺も、ガドに全部…あげる…」

 頬を染めた至極美しく微笑みに、ガドは一瞬時が止まったように感じた。一層香りを強めたティエルを目の前に、全身の毛穴が開くのを感じる。ごわわっと獣化する時のような感覚に『まずい!』と、思わず目を閉じた。
 一瞬で人間の耳が消えて、こめかみの上、側頭部から獣の耳が現れる。尾がズボンを押し上げてカーゴパンツのウエストからはみ出した。
 ーーーー獣化する。
 ティエルも自分の上に乗るガドが大きなトラに変わると覚悟した。だが、触れる頬はいつまでも人間の肌で、大きな頭は現れない。

「ガド…部分的に…獣化出来てる…かも」

 ガドが恐る恐る目蓋を上げると、青い瞳が大きく開かれ、色白の頬は桃色に、次第に細まる瞳が笑みに変わった。

「すごいな!可愛い!」

 ティエルはふわりとした両耳をごしごしと撫でた。
 
「う、うそ…ホントだ…人型、維持できてる…」

 耳を撫で回すティエルの手から伝わる感覚に、ガドも次第に笑顔に変わった。
 
「ありがとう、ティエル!」
「…?俺は何もしてない」
「えへへ」

 ガドは涙が滲むのを感じた。誤魔化すようにへらっと笑って目を閉じたが、ティエルの手に頬を包まれて薄く開いた。

「…もっと、ガドの色んなところが見られると嬉しい」
 
 優しく、唇が触れそうな距離で囁いた声に誘われ、どちらともなく触れるキスをした。

「ティエル。明日も…一緒にいてね」
「ああ。一緒にいたい」






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