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 ふたりはカシロからもらった地図をなぞりながら無理のない程度に進んだ。目的のハイドルクス王国まで上手く行けばひと月かからないだろうか。

「乗り心地は悪いだろうが、許しておくれよ」
「乗せていただけただけでも助かります」
「折れちまった荷台を直してくれたんだ。目的地も同じだし些細な礼ですまねえな」

 楽しそうに笑う男はツノを指先で掻いた。
 小さな村を通過する程度で済ませて、次の街までの道で立ち往生していたヒツジの獣人と会った。彼は野菜を乗せた馬車の荷台の枠が折れて困っていたのだ。ガドとティエルは応急処置程度だが荷台を直す手伝いを申し出た。そして次の街に行くと言う農家の男の馬車に同乗させてもらう事になったのだ。
 馬はご機嫌な足取りで道を進み、人の足で進むより早くに街が見えてきた。ここまで来ると商業の馬車も行き来していて、賑やかだ。

「ほら、街の奥。深い森が北に広がっているだろう?あの森には恐ろしい人喰い大蛇が土地神とか言う迷信があって、蛇が目印の旗がたたってる。あの街はウルテリア。西と東の境くらいかや。ウエストハード王国の一部だが、ジュードロスとかいう伯爵だからなんだかの血筋のお偉いさんがこの辺りを治めてるってよ」
「おじさん詳しいね!」
「俺たちのいた小さな村じゃ、この街くらいしか頼れる場所はねぇからさ。少しは相手を知らねぇと俺たちみたいな弱い獣人は食いもんにされちまう。…あ、実際に食べるんじゃねぇけどな!ははっ」

 明るく話す彼だが、獣人たちが権力のある人間を相手にする事が大変だという事を知っているふたりは彼の苦労を察して笑顔で頷いた。

「でも、出てきた村は治安もいいし、急いでなかったらゆっくりしたかったよね」
「そうだな。獣人しかいない場所は初めてだった」
「そうかい!嬉しいよ。俺たちの村はヒツジの獣人しかいないから、ネコの兄さんたちが来てくれたらみんな興奮するだろうな。また寄ってくれよ?緊張して完全に人型でいる必要なんてないんだぜ?今度は泊まりで来てくれよな」

 ヒツジの男は笑いながら荷台のふたりを振り返った。
 ガドは笑顔で手を振り、ティエルも頷く。獣人は鼻が利くため、ふたりは優しい獣人たちに迷惑をかけないよう『ネコ』として自分たちを紹介していた。ガドの匂いが付いているティエルも自然とそれで受け入れられた。
 天気の良い昼がまったりと過ぎて、陽が落ちる前にはウルテリアの街に入る事が出来た。





「乗せてくれてありがとう!荷物とか下ろすの手伝います」
「こちらこそ楽しい道中になったよ。ありがとうな。荷物はこのまま馬車ごと屋敷に収めるから、心配いらねぇ。気持ちはありがたくいただくがね」

 ふたりを下ろしたヒツジの男は荷台のトマトをふたりに手渡し、手を振って馬車を屋敷へと引いていく。
 ティエルもその後ろ姿に手を振った。

「いい人だった」
「はじめてヒツジの獣人見たよ!」
「ツノが強そうだったな」
「俺もツノ欲しい」
「…変。似合わない」
「そうかなぁ…」
「キバがあるからツノはいらないだろ」

 くだらないやりとりをしながら、ふたりは役場らしき建物を目指した。蛇の旗が立ち、多くの人が行き交う通りを進む。ウエストハード王国のように石畳で整備された道が町中に巡り、建物がぎゅっと詰まっていた。
 
「道が狭いな。表通りの明るさで、裏通りの薄暗さが目立つ。なるべく表通りにいよう。人は多いけど裏通りは物取りが多い記憶しかない」
「そうなんだ。なんか入ってみたくなる不思議な魅力があるけどなぁ」
「ふふっ。確かにね。ガドは好奇心旺盛だもんな。明るい内に少しだけ探索するか?」
「いいの?!嬉しい!」
「よし。まずは薬草類を換金してこよう。そしたらガドの食事を探しがてら」
「探索だ!」

 嬉しそうに八重歯を覗かせて笑ったガドはティエルの手を握って、『タウンオフィス』の看板を指差した。








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