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 ティエルとガドはカシロに言われた通り北西に進んだ。月が高くなる頃にはふたりは林に入る事が出来た。少し傾斜のある山間だったが人目もなく一旦そこで休む事にし、近くに川原を見つけて場所を決めた。
 
「ガド、体調はどう?」
「うん。大丈夫。走ったからちょっと身体がホカホカしてる」
「カシロから中和薬をもらってあるけどどうする?」
「…うーん…なんか、薬って嫌かも」

 人型に戻り、カシロから受け取った衣類を身に付けながらガドは小さなため息と共に目を閉じた。短い間に色々された記憶が甦り、微かに表情が陰る。
 ティエルは座る為に足で地を慣らしながらしょんぼりするガドを見つめた。怖い思いをしただろうと思うと、自然と身体が動いていた。
 ガドに歩み、着替えを終えた背中に身を寄せる。ガドは突然くっついて来たティエルに驚きながらも嬉しそうに笑った。

「ガド。ごめん、すぐ助けられなくて」

 ティエルの謝罪にガドはティエルの方に向き直ると優しく彼の帽子を取った。さらっと音が聞こえそうな動きでひとつに結われた髪が背中を撫でる。暗がりでも輝きそうな美しい髪に、ガドは鼻先を寄せた。

「ティエルが謝るの変だよ。でも嬉しい。ティエルも俺の事考えてくれたって思うと」

 キスしてもいい?とガドが囁く。
 ティエルは少し照れつつ、微かに顔を上げた。触れる唇の温もりを感じて、ゆっくりと目を閉じた。『好きだ』と伝え、伝えられてしまえば微かに灯る欲に抗えず、ティエルはガドの唇を舐めた。一瞬驚いたガドだが、ティエルの唇に促されて互いに唇を合わせる角度を微かに変えた。ティエルの舌が、控え目にガドの口腔へ入る。頬が熱くなるのを感じるほどの恥ずかしさに目を閉じたまま、ティエルは息をするのも忘れてガドの腰を掴む手に力を込めた。
 ガドはティエルの行動を感覚全てで感じ取り、頬を染めて目をぎゅっと瞑る表情を見つめながら侵入して来た舌へ、舌を当てた。ビクッと緊張したティエルの腰を支えながら、唇が触れそうな距離で言った。

「ティエルの息が止まっちゃう」

 ティエルが微かに目蓋を開くと、遠慮なく自分を見つめるガドの金色の眼に心臓が更に速度を増す。ガドに言われてティエルは浅く息を吸った。

「すごい…ティエルからいい匂いが…」

 呼吸を整えたいティエルの耳元にガドの熱っぽい囁きが流れ込み、ビクッと耳が揺れた。
 ガドは俯くティエルの顔へ唇を寄せ、ゆっくり上げさせる。そしてティエルがしたように唇を合わせると隙間から舌を入れ、口腔でティエルの舌を追った。

「ンッん…」
「ティエル…」 
「ん、ぁ…ぅ、ん…がど、んぅ」

 ちゅ、ちゅく…といやらしく鳴り始めた音がティエルの耳を益々感じさせる。『待って』と言いたいのにガドはその隙を与えないほどにティエルをキスで追い込む。
 縦横無尽に口腔を、舌を舐め回され、息継ぎの間に名前を呼ばれ、ティエルは力の抜けそうな身体を叱咤した。唾液が顎に伝う感覚にさえ感じてしまいそうだ。支える腕がぎゅっとティエルの身体を抱いた時、互いの熱く主張する下腹部にビクッと腰が跳ねた。

「っあ、ガド…!」
「はぁ、ティエル、ごめん、止まんない」
「ちょ…ま、待てって…!」

 ぐいっと腰を押し付けていたガドはティエルを見つめたまま動きを止めた。脈打つ熱をお互いに感じながら、見つめ合う。
 ティエルは爆発しそうな心臓と上手く息が出来ない状態に潤む瞳をガドに向けた。
 ガドはこれ以上ないほどにティエルの匂いに興奮し、本能に突き動かされるようにティエルの身体を抱いたまま、『待て』状態で求める視線をぶつけた。
 ティエルが震える唇で何かを言おうとした時、ガドはティエルを抱き上げ、外套の上に座った。向き合った状態でティエルを自分の上に座らせ、甘えるように頬に鼻先を押し付けた。

「ティエル…好き。この匂い…我慢出来ないくらい、いい匂い」

 ガドはくんくんとティエルの首元を嗅いだり、舐めたりしながら腰を押し付ける。
 匂いなんてしない。ティエルはそう言おうとしたが、恥ずかしさの隙間に思う。もしかするとガドは獣の本能でティエル自身から滲むガドへの気持ちを匂いと思って感じているのではないか…と。もしそうだとしたら…

「は、恥ずかしい…」

 ティエルはガドの肩に額を押し付け、自分の醜態にきつく目を閉じた。
 ガドはティエルの頭に頬を寄せながら、熱い息を吐き出した。

「あそこで感じた熱いのとは全然違う…好きで仕方ないって感じで…不思議だけど、ティエルに触りたくて…発情って、事かな」
「かもな…」

 ガドは熱い身体を持て余しているはずなのに、『待て』と言われてそれ以上してこない様子にティエルは微かに口元が笑ってしまう。ガチガチのペニスがズボンの中で主張し合い、お互いを誘いあっている。ティエルの匂いにガドは当てられ、ガドの発情フェロモンにティエルは呑まれていた。







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