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「ティエルとガドは兄弟には見えないけど、どんな仲なの?」
「…ただの友達だ」
「仲良くていいね。お互いを1番に考えてる」
「ガドは…ああ見えてまだ子供みたいなところがあるから、俺が守ってやらないと…それなのに…」
「…気休めにしか聞こえないと思うけど、リージェルは本気で助けたいと思ってる。俺たちはリージェルと同じ気持ちだよ」
「…逃げる事はしないのか?オオカミなら足も速いし、強いだろう?」

 ティエルは、ふと思った疑問を口にした。劣悪な状況から逃げようとしないのは何故?奴隷のように繋がれてもいないし、街中の獣人たちも自由だった。それとは反対に苦しんでいる獣人もいる事は分かったが。しかし、カシロを見ても今すぐにでも遠くへ逃げ出せそうだ。
 ふたりは暗い通路を進みながら静かに話を続けていたが、カシロは足を止めた。

「?」

 ティエルが不思議そうに足を止めると、カシロは兵服のボタンを二つほど外し、下に見えたノースリーブのシャツの首元をぐっと下ろした。胸の中心あたりに拳大の炎のような模様が見える。
 ティエルはそれを見て息を呑んだ。長く生きていて、見るのは二度目だった。

「呪印…」
「へぇ…知ってるの?」
「一度だけ、見た。本でも。人を呪う印だろ?病気にしたり…奴隷とかの行動を制限…」

 ティエルは言いながら、その呪印をカシロが付けていることが後者だと察した。逃げられないのだろう。

「『王に逆らえない』呪いだ。王から離れ過ぎても、『王の為』と言われ時に反抗意識を持っていても、身体の内側を火で炙られる痛みを味わう。リージェルは何度も逆らおうとして…呪印の周りが火傷みたいになってる…」

 カシロが服装を直そうとボタンに手をかけたの見て、ティエルはランタンを代わりに持った。辛い秘密を打ち明けられ、ティエルは疑心を捨てきれない。
 恐ろしい秘密だ。知ったら殺されてもおかしくない。カシロの真意が分からず、かける言葉を考えた。
 カシロはそんなティエルの様子を察して、微かに笑みを作る。

「心配しなくても、リージェルはいつか死んでも王様を殺す気だから。俺たちが死んでも、王様が死んでも、聞かれたところでどうって事ない話だし…」
「カシロは?あと、茶髪の…タグロ?」
「兄弟だから、もちろん一緒に戦う。三千人くらいの獣人の内、リージェルの仲間は二十人。みんな呪いが怖いし、気にしなければいい生活だ」
「…カシロはその生活を壊す事を心配してるんだな」

 俯いたまま説明する自分の言葉の中から気持ちを汲み取るティエルにカシロは顔を上げた。
 不思議な雰囲気のティエル。青目の人間や獣人はいるのに、その瞳は特別な青だ。全てを吐き出してしまいたくなる、不思議な優しさがある。

「そうだよ。俺たちは正しいとか、悪いとか…分からない。でも、兄弟の苦しんでる姿は…辛い」
「そうだな…リージェルは、…すごい人だ」
「ティエル。今話した事だけじゃないんだ。リージェルが腹を立てているのは。俺とタグロ、他の仲間も。何より許せない事が…!」

 カシロが声を震わせてティエルに胸の内を伝えようとした時、上から下まで響くような鈍い音が遠くで聞こえた。そして振動。地下通路の石たちが微かに震えて揺れる。
 ティエルもカシロも震える地面と壁に姿勢を低くした。揺れは一瞬ですぐに収まる。

「地震か?!」
「いや!上からだ!」
「上?!…城の方?なあ!…カシロ!!」

 カシロは体験した事のない、大砲でも撃ち込まれたような揺れに、動揺を隠さず尻尾の毛を逆立てた。ティエルに名前を強く呼ばれ、ハッと我に帰ると地下通路を走り出す。
 ティエルもその足に必死に続いて走った。







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