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 数分もせずにリージェルと同じ兵服を着た茶耳の獣人たちふたりが合流した。

「シュルフェス様の命令で援護に来た。…捕まえたようだな。さすがリージェル」
「アトロ。わざわざ必要ないですよ」
「リージェルは捕まえて来ないかもってシュルフェス様が疑ってたからな。お前、反抗的過ぎなんじゃないか?」
「捕まえるなんて、言い方が悪いですよ。彼は犯罪者ではないんです。ただの旅人。ネコだそうです」

 リージェルが牽制するように言った。視線は鋭いまま。
 ガドは大人しく黙ってリージェルのそばに立っていたが、アトロと呼ばれた獣人がガドへ視線を向けてきた。

「帽子、取ってよ」
「あ、はい…」

 ガドは黒いキャップを取り、潰れた髪を軽く掻いた。控えめにアトロへ向けた視線が絡み、逸らすに逸らせず暫く見つめ合う。アトロは茶色の瞳を細めた。

「金目なんて初めて見たな。それに黒髪も珍しい。クロネコちゃんか?耳がねぇな。尾も。どう思う?」
「若そうだけど、部分的に獣化出来ないんじゃない?」

 アトロとその連れの会話は自分の事だと分かり、ガドがリージェルを困った顔で見る。
 リージェルは察して背中に触れた。

「旅人だそうです。こう言う大きな街は初めてかもしれません。そっとしておいてあげませんか?」
「シュルフェス様は連れて来いって言ってたぞ」
「リージェル。お前、言う事聞かないとマジで身体ヤバいんじゃないの?とりあえず連れて行こう」

 アトロと連れが歩き出し、リージェルは小さな溜息と共にガドを促して歩きはじめた。
 ガドは心配そうにリージェルを見た。

「身体、悪いのか?」
「え?…ああ、そう言うんじゃないから心配はいりません。とりあえず、大人しく出来るみたいで安心しました。おしゃべりと暴れたりするのは利口じゃないから」
「分かった」

 素直に頷き、拘束しなくても問題なさそうなガドの様子にリージェルは申し訳なさそうに耳と眉を下げた。
 ガドは歩きながら、小さな声でリージェルに話しかけた。前を行くのもオオカミの獣人であるから声を潜めても意味は無いのだが。

「あのさ、耳とか尻尾だけってどうやってだすの?」
「…やはり部分的には出来ないのですか?出来た方が身体能力が倍は上がりますよ。ネコやウサギは特に獣型より人型の方が有利ですから…大抵は成長過程で出来ます。仲間や大人がアドバイスをくれます」
「…俺、人間のお婆さんに育てられたんだ」
「…そうですか。人間から教わることはできませんからね。その内出来ると思いますよ。今、いくつですか?」
「たぶん…18くらい。バーバが死ぬ前の年は13本ロウソクを消した。リージェルは?」
「…私は今年25になります」

 リージェルはまだ子どもの内にひとりになったガドの背景を知り、身体の大きさとは反対にどこか幼さの抜け切らない表情や雰囲気に納得した。ますますこの腐った国の餌食にさせてはいけないと強く思う。

「待ってる人がいますから、早く終わらせましょう」

 リージェルはティエルの名前は出さなかったが、安心させるように笑みを向けて頷いて見せた。

 



 タグロとカシロは城の裏にある納屋に入ると、部屋の隅に山と盛られた草を足で掻き分けた。床には蓋があり、地下への階段が現れる。
 カシロが先に降り、タグロはティエルに先を促した。

「カシロに着いて行け。俺は草を戻して匂いを誤魔化す。リージェルが心配だから見てくる」
「ガドの事、忘れたら許さないからな」
「リージェルが助けようとしてくれてる事を忘れるな」

 ふたりは一瞬睨み合ったが、カシロがふわりとしたブロンドを掻き上げながら優しく声をかけた。

「仲良くしてよ。協力しなきゃ。ティエルだっけ…リージェルもただじゃ済まないのにキミたちを助けようとしてくれてるんだよ?」

 ティエルはカシロの穏やかな言い方に眉を下げた。助けようとしてくれているのは分かるが、ガドと引き離されて不安が大きくなっていくのを止められない。リージェルの『一生種雄にされる』と言う言葉が胸に刺さって消えてくれない。

「そうだな。申し訳なかった…どうしてガドを連れて行ったか聞きたい」

 ティエルがタグロに謝ると、『いいよ、別に』とタグロは地下への扉を閉めた。
 カシロが階段に置かれたランタンに光石を入れて灯りを灯し、階段を下りながらティエルを呼んだ。

「話してもいいけど…前にも何度か旅人の獣人を捕まえた。一度も逃すことに成功してないんだ。みんなこの街に『住んでる』。だから、覚悟してくれる?」

 カシロの瞳にランタンの光が入り、茶色から金色のように変わる。
 ティエルはガドの綺麗な金色の瞳が思い出され、カシロの言葉に震えた。それでも頷いて、歩くカシロの後に続く。

「この国は獣人が多い。理由は量産されているから。交尾を頻繁にさせて繁殖。突然変異や隔世遺伝で希少種が生まれる事に望みを抱いて。希少種は普通の獣人の何倍も強いから、国の強化には欠かせない。リージェルとタグロと俺も同じ父親から、別々の獣人の母体を使って同じ日に生まれた兄弟だ。シュルフェス様はオオカミの中では強い黒オオカミ。今の種雄だ。最近は唯一、黒オオカミを受け継いだリージェルが種雄にされつつある。薬で無理矢理発情させられ、何人もの雌と交尾させられる。種族関係なく。前王から仕えてるシュルフェス様はそれを当たり前だと思っているけれど、リージェルは違うんだ。…本来、オオカミは唯一の番(つがい)と生涯添い遂げる本能がある。身も心もボロボロなんだ」

 リージェルの事を悔しそうに語るカシロの声が震えていることに気付き、ティエルは静かに聴きながら拳を握りしめた。平和そうな国の、大きな城下街だと思った。人間も獣人も仲良く暮らしている…そんな場所だと。
 ティエルが黙っていると、カシロは長い地下通路を歩きながら再びゆっくりと口を開いた。








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