ウエストハード王国の城門は多くの荷物が運び込まれ、忙しそうだった。荷物の少ないティエルとガドは軽い荷物検査のみで通過する事が出来た。

「…う、わ…すごい人がたくさん…」

 門を進んで大通りに出ると、そこは賑やかだった。飛び交う声、路上の楽隊の奏でる音楽、露店で売られる様々な料理たちの匂い。
 ガドは初めての光景に固い表情で辺りを見回した。情報が多すぎて、獣化してしまいそうに緊張が高まる。
 そんはガドの様子に気が付き、ティエルは微笑んだ。きっと処理し切れない感情に弄ばれているんだろうなと思うと可愛らしい。見た事のない物や、建物、人間たちがたくさんいるのだ。気持ちは分からないもない。握ったガド手をグイッと引っ張った。

「ガド!まずは貯め込んだ薬草を売りに行く。それからガドの帽子と地図を見よう。安めの宿でゆっくり休んで先に備えないとね。美味しいものも食べよう」

 ガドはふわふわしていた自分を現実に連れ戻してくれたティエルに笑顔で頷いた。





 ガドは涎の垂れそうな顔で必死に口を引き結び、屋台のメニューを睨んでいた。

「お兄ちゃん、そんなに悩むなら両方買えばいいじゃないさ。たったの150ベルよ?ふたつでも300ベルさ」
「うーん、でも、節約したいから…うむむ…」

 牛の串焼きか豚の串焼きか。塩味かソイソース味か。ガドの目がギラギラと獲物を狙うように選択を迫られていた。
 それを見て笑う店主と、ティエルの小さな笑い声が重なった。

「奥さん、どっちも買ってやりなよ」
「えっ…?!」
「べっぴんさんに尻に敷かれてんのかい?デカイ身体で可愛いじゃないか」
「ち、違いますよ!俺は男です」

 ティエルが慌てて否定すると、店主は驚いて目を丸くした後、大きな声で笑った。

「あらあら、ごめんねぇ!随分美人さんだから間違えちゃったわ!ほら、一本オマケしてあげるから」

 店主は豪快に笑いながら二種類の串焼きを紙に包んだ。牛には塩。豚にはソースをたっぷりと絡める。いい香りが立ち上り、ガドは耳がボッと出たのを感じて慌てて買ったばかりの帽子を押さえた。

「美味いよ?うちの肉串はね!」
「すみません、ふたつ分払います」
「いいわよ!いい男がふたりも来たらおばちゃん嬉しいもの!」

 仲良くね!と手を振る店主を振り返り、ガドは何度もお礼を言った。

「ガド、初めから二つでも三つでも買えばよかったのに」
「ううん、お金は大事だから」
「薬草類が思ったより高く売れたから、しばらくは大丈夫だよ。でも、ありがとう」
「俺にもできる仕事あるかな」
「それ、食べ終わったら職安に行ってみる?帽子屋のそばに見たよ」

 ガドは牛串焼きにかぶり付きながら大きく頷いた。
 肉を頬張り、幸せそうなその顔にティエルも頬が緩む。誰かが食事をしているのを見て、こんなに嬉しい気持ちになるのは初めてのことだった。ティエルは無意識にガドの腕に身体を寄せて、ふふっと笑った。

「美味しそうに食べるから、俺もお腹空いた」

 そう言って小さなナッツを一粒口へ入れたティエルに、ガドはソースを指先に着けた。

「ソースだけでもダメ?」
「…じゃあ、ちょっとだけ」

 肉が食べられないティエルは不安に感じながらも、ソイソースと聞いて、ガドの指先を舌でつついた。深い香りと、しょっぱさにティエルは目を開いた。

「やっぱだめ?」
「美味しい…けど、塩辛い…」

 ティエルは苦笑いして、この年で初めて味見した味を口の中で未だに感じていた。ひとりでは、絶対に口にする事のなかった塩味。ティエルはガドの存在で自分が初めての経験を多くしていることに気付いた。彼の存在が大きくなっている。自分の中にあるこの感情、これは間違いなく好意だ。ティエルは意識し始めると、顔が熱くなってしまうのを自覚して紛らわせようと明るく言った。

「…は、腹いっぱいにはならないだろうけど、ゆっくり食べて!俺は見てるだけで腹いっぱい」
「俺ばっかりごめん…」

 ガドは謝りながらも、美味しい料理に笑顔が溢れる。ティエルが声を立てて笑うと、ガドも照れたように笑った。







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