「…雨上がったね」
「そうだな。雨と土の匂いって好き」
「ティエルも?俺もそれ、分かる!」

 雨が上がり、雨宿りをしていた小動物たちが去って行く中、ガドは立ち上がって被っていた外套をバサバサと振った。防水生地のそれから、水滴が飛び散りキラキラと舞う。

「防水の外套がすぐに役に立ったな」
「うん。すごいね。こんな物があるなんて俺知らなかった」

 ティエルは髪と耳を帽子へしまいながら雨水を飛ばして楽しげなガドに顔が緩む。

「この先は半日くらい森から南に行けば大きな街だ。そこでそこより先の地図を手に入れられたらいいけど…」
「楽しみだ」
「そうだな。けど、人が前寄った町より何倍も多いはずだ。気をつけて行こう。…俺が捕まったりしたら、ガドはすぐ逃げるんだ。約束してくれ」

 ティエルはカバンを背負い直しながら、ガドに確認するように言った。真剣に、青い瞳がガドを見つめる。
 ガドはティエルの眼差しに小さく首を振った。

「やだよ。一緒にいるって言ったじゃん。逃げたりしない」
「ガド…」
「バレないよ。大丈夫。ティエルはエルフじゃない。俺は虎じゃない」

 ガドは自分に言い聞かせながら、ティエルを納得させようと彼の両手を握った。ぎゅっと握り、少し屈んで視線と合わせるとガドは顔を近づけた。

「もし、離れ離れになったら一番近くの森で待ち合わせよう?でも…俺はティエルの手を放さないからね」

 ガドはティエルの瞳を見つめたまま、鼻先
を触れた。お互いの顔が、視界を埋める。
 ティエルは真っ直ぐに見つめるガドの金色の瞳に吸い込まれそうな感覚に息も出来ない。頬が熱くなり、その唇を欲してしまう。見ていられなくなり、そっと目を閉じた。

「が…ガド…分かった。離れない。一緒にいよう」
「うん」

 ガドは鼻先をすりっと擦りつけてから握っていた手を放した。
 離れた事を感じてティエルが目を開くと、八重歯の覗く笑顔が『行こう』と誘う。
 こんなに甘え上手な生き物いる?とティエルは動揺を隠すように俯く。速まる鼓動を落ち着けるために深呼吸を繰り返した。





 歩き始め少し立つと、ウエストハードという国が治める一番大きな街が見えて来た。街が見えたというよりは、山を崩して建てられた大きな城が見えた。山あいの国は鉱山業が盛んで、金属の生産が盛んだと言われている。

「なにあれ!すごい!」
「…城だ。初めて来たから分からなかったけど、あの街、ウエストハード王国の城下なんだ」
「シロ…すごい面白いトンガリ屋根がたくさん」
「はは、トンガリ屋根って可愛い。…城下街だとすると、入り口で検査されると思う。前に通った時は検問があった。荷物を見せたり、武器を持っていたらお金を取られるかも。来る途中で採ってきた薬草類を売る目的……て、ガド!」

 うむむ、と念入りに先の事を考えていたティエルは、楽しそうに走り出したガドの背中に思わず声を上げた。楽しみだと体現するようにぴょんびょん跳ねる長身に、呆れていたティエルだが、だんだんと笑ってしまう。

「ホント、子供なんだからー」
「ティエルー!!」

 ティエルが晴れた空に呟き、それをかき消す勢いの声でガドはティエルを呼んだ。

 





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