「ティエルは危険だって分かってるのに、ひとりでこの森まできた?」
「…出来れば仲間の…エルフの居る森を探したくて…」
「そっか…遠くから来たの?」
「え…あ、…うん。ずっと西からきた。たぶん10年くらい北や南に寄りながら東に向かってる」
「じゅうねん?!」
「…エルフは警戒心が強まってて、なかなか見つけられないんだ…」

 そんなに長い間、ひとりでいたのかと思うとガドは胸が痛んだ。バーバが死んで3年程だが、ひとりは退屈で寂しいと思うこともあった。まだ、鳥や動物が居て遊び相手にはなったが、会話は出来ない。久しぶりの対話相手は、エルフの彼。自分よりもずっと長い間ひとりきりで生きてきたと知り、眉を寄せた。

「…ガド、キミがそんな顔しないでよ」
「え?」

 泣きそうな顔してるよ。とガドの頭を撫でるティエル。ガドは俯いてしまった。

「ずっと北東に、ハイドルクス王国って言う国がある。100年以上戦争をしていなくて、獣人が共に国政に加わっているし、他の国との同盟も長く続く素晴らしい国なんだって。旅先で聞くだけじゃ無くて、本にも載っていた。その国に行きたいと思ってる」
「エルフも居るかも?」
「そうだ。…そうだといいなって思ってる」

 大きく頷くティエルの意志に、ガドはつられて頷いていた。あまり知識のないガドにはその国の場所も名前も知らないが、ティエルはそこを目指しながらずっと旅をしていた事が分かった。そして、自分にも同じ仲間がいるとすれば、この森に居ては出会えないだろう。
 ガドは考えた訳でも無く、顔を上げると迷いなく言った。

「俺も一緒に行きたい」

 真っ直ぐにティエルを見つめるガドは真剣そのものだった。
 しかし、ティエルはすぐには頷けずにいた。この森は少なくとも今は安全そうだ。それに、彼はこの森からあまり出た事が無い様子だ。危険な歩き旅に連れて行って大丈夫かと不安にも思う。特に、エルフの自分といるのは…と不安そうに眉を寄せた。
 ガドは良い人だ。森の木々たちもそう伝えて来る。そんな彼を危険に晒す事になるかもしれない。
 黙ってしまったティエルに、ガドはさらに続けた。

「俺、オノとか弓なら使えるよ。危なくなっても戦える。人間との差はよく分からないけど、獣人だから逃げ足も速いと思う。…ティエルも守りたい」

 ティエルはまさか、ガド自身と共に己を案じる言葉が出てきた事に息を呑んだ。

「こんな風に言ったら勝手だけど、きっとティエルに植物たちがこの森に入ることを勧めたのは、俺がいたからだよ」

 真剣に子供っぽい事を告げるガドに、緊張していたティエルは思わず吹き出した。
 本気だ!というガドに何度も頷きながら、本当にそうなのかもしれないと頭の隅で思った。久しぶりに『寂しい』『辛い』『諦めたい』そんな気持ちとは正反対の感情で満たされる。

「そうだな。…俺も、ガドと行きたい」

 未だに笑っているティエルだが、ガドは嬉しそうに頷いた。

「でも危険もある。ちゃんと準備して行こう。…あははっ、ガドって可愛い」
「かわっ?!かわいくないっ…!!」
「!!??」

 反論しようとしたガドだったが、一緒に行ける喜びや興奮から制御出来ずに獣化していた。自分でも驚いた様子で大きな金色の目はまん丸に開かれた。
 目の前にある大きな虎の顔に、ティエルはますます笑って、太くふわふわの首に抱き着いた。

「ありがとう、ガド」

 耳を垂れ、グゥ…と喉を鳴らすガドの首元にティエルは顔を擦り付けた。







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