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マーリはふたりに笑われて、俯いて困ったように眉を寄せた。その困った顔はすぐに霧丘に向けられ、青い瞳がじっと見つめる。縋るような、求めるような、けれど決して逸らさず、命令を待っている。
霧丘はぞくっとした甘い疼きが蘇り、マーリの眼差しを睨み返した。
ポケットから財布を取り出すと佐野に向かって放り投げた。それを慌てて受け取った佐野に向かって、霧丘は短く命じた。
「必要無いと思わせるな。それで足りるように物を用意して来い。佐野、お前とマーリを連れて行く」
佐野はパッと顔を上げて目を輝かせた。キレ良く返事をする。
認められたとは言い難いが、必要としてもらえた事が佐野には嬉しかった。地方から佐野が霧丘を追いかけて来たことを、彼は知らないが、地元で彼に敵う人間はいないと言うほど喧嘩が強かった。悪い連中と連んでいた時、佐野も霧丘にボコボコにされた事があった。多人数にも負けない、そんな強い後ろ姿に目を奪われた。そんな男になりたいと佐野は霧丘を追いかけて来た。まだそばに置いてもらえることに心が跳ねる。
「霧丘さんとマーリと行けるなんて!絶対ガッカリさせません!」
「マーリの教育を怠るなよ。馬鹿だからな。お前に任せるぞ」
「はい!!」
マーリを探してよかった!と佐野は心の中で叫んだ。マーリには霧丘が不可欠な事はわかり切っているが、霧丘にもそうなのかもしれないと、最近の様子から感じていた。自分自身は霧丘に必要とされなくてもマーリは違うのでは…と言う考えは間違っていなかった。
佐野は事務所を後にし、弾む気持ちを抑えながらタクシーを捕まえて買い出しへと向かった。
一方で取り残されたマーリは、霧丘に睨まれ、そわそわと正座して主人の出方を待つ。
「霧丘…?さん?」
「霧丘でいい。気持ち悪い呼び方やめろ」
「はいっ」
マーリは声のボリュームが調整出来なくなったように大声で返事をした。彷徨っていた目は霧丘を見つめ、離さない。
霧丘はその、純粋に真っ直ぐ自分を見つめてくるその目が、実はドロドロに淀んで欲望を隠しもしていない事を知っていた。
「お前はこっちだ。来い」
隣の部屋のドアを開け、顎で示す。
既に部屋には何もないが、鍵のかかるその部屋にマーリは霧丘と入った。
「さっさとその逸物を勃たせろ」
「は?!?!」
「使えねぇなァ。勃たせる事くれぇできんだろぉが」
「????」
マーリは訳がわからず、どうしていきなりそんな事を言われるのか、戸惑ったように霧丘を見つめた。言葉に迷っていると眼前に迫った霧丘がマーリの瞳を見つめた。身長はほとんど変わらない。霧丘にじっと見つめられ、マーリは息を詰めた。
「お前に無理矢理ヤられてから、疼いて仕方ねぇ。ヤクの所為かとも思ったが、他の男なんて死んでもゴメンだからな。お前のコイツが必要だ」
分かったか?と半勃ちのペニスを衣服越しに掴みながらドスの効いた声で凄まれ、マーリは小さく何度も頷いた。そんなマーリを小さく笑うと、霧丘は頬に唇を触れた。
マーリは雑に扱われる事はあっても、優しいキスを受けた事は無かった。はじめての唇の感触に顔は火が付いたように真っ赤になる。そして霧丘の手の中のペニスは一気に滾り、ぐぐっと質量を増した。
「おいおい、言われて出来ねぇのにキスのひとつでガチガチじゃねぇか」
「っ、だ、だって…霧丘が…」
マーリは霧丘の唇が触れた頬に指先を持っていった。じわりと広がる不思議な感覚にマーリの目が潤む。霧丘が求めてくれている。マーリのスイッチが入るには充分な出来事だった。
霧丘の足元に跪き、ベルトを外して下着とスラックスをずらした。マーリは熱を持ち始めている霧丘のペニスにキスをすると、慣れて様子で口腔へ受け入れた。じゅぷじゅぷとあえて音を出し、いやらしく霧丘を見上げながら深く咥え込み、喉できゅっと締める。唾液で濡れたペニスを吸い付きながら唇で扱く。霧丘の手がマーリの耳元を擽り、甘い痺れが生まれた。マーリが霧丘を見上げると、ほんのり快感を匂わせる表情でネクタイを緩める姿が目に入り、苦しいほどにマーリの下腹部に熱が渦巻いた。
「壁に、向いて欲しい…です」
ちゅっと先端にキスをしながらマーリが霧丘の内股に舌を這わせ、お願いする。霧丘は無言で壁に手をつき、背後のマーリへ視線をやった。
マーリは霧丘の鍛えられた内股を舐めながら己のペニスを扱き、先走りを絡めていた。この足に蹴られた数々の男たちがよぎり、マーリはそれにすら嫉妬しそうになる。蹴られたい…そんな歪んだ欲望が、たしかに渦巻く。
ぐちゅ、ぬち、といやらしい音が時折鳴る。そのペニスには相変わらずピアスが光り、存在感を放っていた。
「ふぁ、霧丘の肌…最高、です。好き…」
ただ、足を舐めているだけなのに感じているのか、マーリは射精した。その精液を指に絡め、霧丘の閉じ切ったアナルへ塗りたくった。
「ナカ、入れるよ」
ちゅっとマーリが霧丘の尻に鬱血跡を残すくらい強く吸い付きながら指を体内へ押し込んだ。
「っ…く!」
精液の滑りを借り、内部に埋まった指で少しでも挿入の負担を減らそうとマーリは霧丘のペニスを扱きながらアナルで気持ち良くなれる場所を念入りに刺激していく。
霧丘は震える足をぐっと耐え、歯を食いしばって声を堪えた。熱い息が時折漏れ、それを聞いているマーリは煽られるように段々と指の勢いを強めていく。
ビクッと霧丘の腰が跳ね、先走りが垂れた頃マーリはゆっくりとアナルに埋めていた指を引き抜いた。
マーリは霧丘の足を舐めながら視線を上に向けた。その目には、壁に手をつき頬を染め、俯いて快感に耐えるように目を閉じて歯を食いしばる霧丘しか映っていない。
「霧丘…すごい…たまらない。すごい…キレイです…はぁ、はぁ…サイコー」
マーリの気配を背後に感じ、霧丘は上体だけ振り返った。
「…マー、リ」
獰猛な、飢えた獣のように腕の中の男を見つめるマーリに、ぞくぞくとした愉悦が霧丘の背筋を駆け抜ける。自然とアナルが甘く疼き、腰が震えた。
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