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 二時間ほど集中して作業をしていた3人の元に、買い出しから帰ったトニーの足音がバタバタと聞こえた。
 ローアがパソコンを閉じて目頭を押さえる。

『うるさい。トニーの足音。アレでよく忍び込んだり出来るな』

 想と島津も集中が途切れ、背中を伸ばすように腕を上げた。
 買い出した物が入る袋を落としながら部屋へ走ってきたトニーがテレビのリモコンを慌てて掴み、チャンネルを変える。

『トニー!』

 ローアの怒りを遮り、トニーはテレビを見ろと促す。
 緊急速報のニュースだ。
 日本近海、海沿いの田舎に中国の個人小型飛行機が墜落したと言うニュースだ。

『なに?』

 想が首を傾げる。
 トニーはニュースから視線を想へ変え、エドアルドから来た連絡の内容を話した。

『ジャアーンが乗ってた。死者はジャアーンひとり。どういうことか分かるだろ?』
『事故じゃないってこと?』
『パイロットは逃げた。ジャアーンは小型機と一緒に落とされたって事。事故じゃない』
「ジャアーンとパイロット以外分からん」

 島津がニュースを見ながらトニーと想の会話に首を傾げる。想が説明すると、島津は大袈裟に頷いてから視線を想に変えた。

「新堂さんじゃね?」
「……!」
 
 新堂の名前に想は心臓が跳ねた。無事だと聞いていたが、長く顔を見る事が出来ていない。急に名前を聞き、ぎゅっと胸が痛んだ。
 顔が固まり、俯く想からトニーへ視線を変え、もっと情報はないのか?『もっと』と単語を島津は言った。

『このニュースが何かあるわけ?暇じゃないんだよ、トニー』
『シンドーが、タオ・ジーに責任を取らせた。エドアルドと付き合いのある麻薬組織にタオから良い品質のものを此方がチェックして許可した品8000万ドル分。息子の身柄も。エドアルドがジャアーンなんていらないって伝えたら…』

 コレ。とトニーがテレビを指差した。ローアは何も言わず、考え込むように口元に手を当ててテレビを見つめた。
 ニュースキャスターの声だけがしばらく部屋に流れた。

『まぁ、確かに。中国に墜ちたら隠滅されそうだからな。日本近くってのは正解だね』
「有沢。何言ってるかマジで分かんねぇから。新堂さんの名前聞こえたけど大丈夫なんか?」

 不安そうに眉を寄せて唇を引き結んでいる想の肩に島津が触れた。想は不安げに視線を彷徨わせながら、トニーとローアの言葉を伝えた。

「なんで有沢が不安そうな顔してんだよ。新堂さんがめちゃキレてる事は想像できるし、こんな事出来るって、体調も大丈夫って事だろ?」
「大丈夫だと思うけど、無理してるかも!撃たれたんだし…!」

 想が声を荒げて反論すると、ローアとトニーが心配そうにふたりを見た。

「無理してでも片付けたいっていう新堂さんの気持ち分かる。早く有沢を迎えに来たいんだ。お前と一緒だよ」

 島津の言葉に想は拳をぎゅっと握った。無理をさせているのかもしれないと思う反面、自分が同じ立場なら少しでも早く会いたいと思う。同じだと言われて、『違う』とは、これっぽっちも思わない。   
 小さく頷いて無理矢理納得した様子の想を見てトニーは目を丸くした。

『話は分からねぇが、アリサワはシンドーの話になるといつも必死だな。そう思うだろ、ローア』
『空気読め、バカ。黙ってろ』

 ローアは言葉が分からなくても端々から感じる様子で新堂と想の関係をなんとなく察していた。トニーの方は今でも分かっていないようで、ローアは大きなため息を吐いた。鈍感さが、良くも悪くも彼の長所だが呆れる事も多々ある。
 トニーに黙るように示したローアは、新堂の事を考えているのか肩を震わせ、今にも感情が溢れ出そうな想を見て眉を寄せた。トニーの手からリモコンを奪い、テレビを消す。

『シンドーが凄いって事は理解した。きっとすぐ迎えに来る。これはメッセージなんじゃないか?そうなると仕事の手伝いが減るのは困るから、早く残りを片付ける』

 時計を見ると夕食時までには1時間ほどある。ローアは島津を「早く」と日本語で急かした。
 想もつられて紙の資料や契約書に手を伸ばした。ソファに座り、作業を再開すれば気も紛れるかもしれないと。

「ローア。『ありがとう』」

 真面目なローアの気づかいを察した島津が慣れないイタリア英語で返す。
 ローアは数秒目を伏せ、口元に笑みを浮かべた。

『ひとを心配する気持ちは誰にでもある』

 パソコンのキーボードを叩き始めたローアの言葉は島津にはイマイチ理解できなかったが、優しい言葉に違いないと、島津は頷いた。






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