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『…すみません。エドアルドさん、コレも』

 想はタイランが死んだ事を見て薬を使った事に胸がチクっと痛んだ。戦い疲れていた、腕の中のタイランが思い浮かぶ。
 ポケットの中のUSBメモリを手にエドアルドを呼び止めた。

『…それは?』
『ドロボウは『カラン』の下っ端で、本当はジャアーンと言う人物の指示だった証拠らしいです。もしかしたらもっと上がいるかも』

 想は先程ローアが中国からの取引を提案された事を口にしていた事を思い出す。この証拠がある前提で水に流して欲しいという内容か。隠した上で軽い責任を取るという提案か。後者だとすれば、騙されたような形のエドアルドは許し難いはずだ。タイランは一矢報いれるかも知れない。

『なるほど。息子ジャアーンの為にタオは私に取引を持ち掛けてきたんだね。ありがとう。証拠は確認させてもらうよ』

 想の手からUSBメモリを受け取ったエドアルドが、その手首を掴んだ。
 想は首を傾げてエドアルドを見上げる。深い緑色の瞳が優しく笑みを作った。

『ソウと、キミ。ヤクザが探しているよ。だからこのまま連れて行く。何か問題があった時のプランを言われているからね。新堂の連れだけの予定だったけど、そっちのキミはオマケ。パスポート類は追々新堂が用意してくれる筈だよ。密出国は初めてかな?』

 電車は初めて?とでも言う風に笑みを絶やさないエドアルドとは逆に、想は驚いて島津を振り返った。その表情を見て島津は腕を組んだまま眉を寄せて首を傾げた。

「なに?俺?」
「青樹組に狙われてるから…俺と島津を連れて行くって…」
「どこに」
「外国…」

 島津と想は見合ったままだったが、想は信用出来ないと言うように小さく首を振って見せた。島津は想がどう動くか見極め、フォローするつもりでエドアルドとトニーを警戒する。
 それを察したエドアルドが想の手首を離した。

『お客様としてエスコートするつもりなので、暴れられるのは困るかな。ソウ、キミって顔に似合わず腕を捨ててでも逃げそうで怖い』

 笑みを向けられて戸惑う想に、店内から凌雅の声が聞こえてた。

「信用して、連れて行ってもらって。島津もね。制裁の為じゃなく、ふたりをスカウトしたくて青樹組の下が動いてる。ヤツらは店や友達、知り合いを出して脅してでも想君と島津を引き入れたがってる。想君は経験あるよね。地獄だよ。今は希綿組長不在で統制がブレてるからね。でもふたりが海外と知れれば強引に動いても意味が無くなる。自然と周りの無事は確保される筈。その間に若林さんが警察と連携して『カラン』を潰し終え、希綿組長が組を締め直す。命を助けられたんだから、新堂さんの可愛い人と島津に関わる事を許さないと思いたい。と言うか俺が許さない。あとは新堂さんの回復次第だけど、安全第一で考えてくれる?」

 一気に言い終え、凌雅はローアに何か
書かせていた。ふたりの安全を約束する契約だ。それまでハードディスクを預かる事でお互い合意した。

『ちゃっかりしてる』
『ふふ、ローアにそんな事言わせるなんて凄いね』
『エドアルド、無事を保証するつもりで匿うんですから、ハードディスクはコピー出来ない仕様になっていますし、先延ばしになりますけど問題ないですよね?』
『いいよ。それにそんな事しないよ、新堂はね。約束はお互い厳守で』

 エドアルドが許可を出し、凌雅も頷いた。
 しっかりと著名させられた事にローアは口端を上げて、そんな彼を見てエドアルドは笑った。勉強になるだろ?と。
 
『ちょっと暴れ馬みたいなふたりだけど、よろしくお願いします』

 凌雅が苦笑いしながら丁寧に頼む。ローアは不本意そうに眉を寄せたが、了承して席を立った。トニーが袋に詰めたタイランの死体を担ぎ、先に表通りへと向かっていく。

「蔵元、こっちの事よろしくな!」
「蔵元…いっぱい迷惑かけてごめん」 

 凌雅の脇に立ち、事の進みを不安げに見ていた蔵元に店の外から島津が大きな声をかけた。想も謝りながら頭を下げる。

「ふたりとも!早く戻ってよね!」

 蔵元はふたりに大きく頷いて、ぎゅっと拳を握った。ふたりが戻る時に何も変わらずに居ようと決意して。エドアルドと共に店を離れていく想と島津を蔵元は見つめていた。
 不安気な様子に凌雅は立ち上がり、蔵元の隣に立った。

「俺も力になるからさ」
「あのふたりよりも心強いって言うのは心の中の声です」

 冗談が言えるなら大丈夫だね!と凌雅は笑った。






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