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 少し奥まった、商店街裏にあるアルシエロまでは車で入るのは困難な為、裏口に近い道路脇に停車させた。島津は先に降り、ぐったりしているタイランの腕を肩に回した。想も続いて降り、反対側を支える。

「…ア?着いた…?」
「身体、痛む?」
「…よく分かんナイ…」
「もう店の裏だ。救急箱で済む怪我じゃねぇけど、応急処置するか?」
「ヘーキ」

 想と島津に抱えられ、店の正面へ移動する。扉は開いており、中の様子が見えた。開いた扉の横には外国人がひとり。茶色い短い髪をアップにしている黒いシャツにグレーのジャケットとパンツ姿で、手には銃。

『止まれ』

 銃口は向けられていないが、視線は既に鋭く、命令するようにイタリア語が放たれた。

『タイランを連れて来た』

 想は男に向かってタイランを少し揺らして見せる。

『…ローア、ドロボウが捕まったぞ』 

 男は店内で凌雅と話をしていた男に向かって声を掛けた。視線は想たちから変えない。
 ローアと呼ばれた金髪が立ち上がり、扉の方へやって来た。

『アリサワ。エドアルドから聞いてます。ちゃんと欲しい物を全部揃えられたなんて偉い偉い』

 少しバカにしたような言い回しで笑みを浮かべるローアを想は睨み付けた。

『全部持って早くどっかに消えて』
『わぉ。可愛い顔して酷い言い方。まだ子供なんだからちゃんと教育受けないとね』
『俺は大人です。もう教育は終わりました』

 ローアは想の言い分に口元を隠して戯けた様に目を瞬かせた。

『日本人で若く見えるね。失礼、失礼』
「有沢、大丈夫か?何言ってんのか理解できねぇけど」
「俺をバカにしてるだけ。さっさと終わらせたいって伝えてる」

 少し不機嫌そうな想の答えに、島津は察して微かに笑った。タイランがふたりに挟まれたまま、自分で立とうと身体を動かした。

「俺、行く…ソウ、シマヅ、アリガトウ」

 タイランはふらふらとふたりから離れて、ローア達の方へ覚束ない足取りを進める。

『トニー、ドロボウを見張ってて。中で話を終わらせてくる』
『分かった』
『…ねぇ、アリサワ。キミのボスのシンドーはそんなに凄い人なの?エドアルドが中国からのオイシイ話よりシンドーとの契約を優先する事に理解出来ないんだけど。勿体無い』

 中に入る間際、ローアは腹立たしいと言う様子を顕に想を睨み付けた。先程までのとぼけた雰囲気は失せていた。

『…中国のオイシイ話は知りませんが、もっと良い話、先の利益を見据えての事では?貴方とは違ってエドアルドさんは優秀ですね』

 想はローアを煽るような言い方をして鼻で笑った。バカにされたローアより先にトニーが想へ反論しようと口を開いたが、それをローアか制した。

『なかなか言うね。面白い』

 ローアはそう残して中へ戻って行く。トニーは怒りの矛先を失い、大きく溜息を吐き出した。タイランがトニーの前に辿り着くと、上から下まで無事では無い姿にトニーは笑った。

『汚ねぇな』

 タイランはトニーの視線を受け止めて、そのまま腰を下ろした。そして流暢なイタリア語で返した。

『俺は生まれも育ちも便所だから仕方ない』

 座り込んで目を閉じたタイランにトニーは舌打ちをすると、腕を組んで視線をよこす島津と目が合う。隣で想も小首を傾げて此方をじぃっと見つめていた。

『なんか用かよ?』
『そっちの尻拭いしてやったんだけど、お礼とかないの?』
「何言ってるか知らねぇけど、もっと言え、有沢」
『お礼欲しくてやった訳じゃないけど、礼儀も知らないクソマフィアのくせに。汚ねぇのはどっちだよ』
『アァ?!』
『そうやって銃持ってたらビビるとでも思ってるの?偉そうに』

 想はタイランを貶された事に腹が立っていた。威嚇してくるトニーに更に苛立ちを重ねる想の肩に背後から革手袋をした大きな手が乗った。島津も想も近くに来るまで気配に気付かず、ハッとして振り向く。

『ごめんね。うちの部下が偉そうにしちゃって。ちゃんと教育しとくよ。今、頑張ってそこのローアとトニーを育ててるところなんだ。その辺にしてやってくれるかな?』

 エドアルドが現れ、想と島津に眉を下げた。それからトニーに。

『礼儀正しくって言ったはずです。ここは他所の国と言ったでしょう』

 謝りながら視線を泳がせるトニーに小さな溜め息を溢し、下に座り込むタイランへ視線を変えた。エドアルドは数秒見つめてから、歩みを進めて店の入り口へ向かった。

『トニー、ソレ、いつから死んでるの?』

 言われて、トニーは勢い良くタイランを見た。血塗れの顔では判断し難いが唇は青くなり、微かに唇の隙間から泡が漏れている。

『?!!』
『やれやれ』

 トニーは青くなり、タイランの身体を爪先でつついた。ぐらっと簡単に崩れて行く。

『いつの間に…!』
『そう言う危険を見ていないと。手負いの獣は凶暴になるか、さっさと諦める。仕方ないから死体袋にでも詰めておいて下さいね』

 反省しなさい。とエドアルドに諭され、トニーは叱られた犬のように落ち込んで俯いた。

 




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