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 蔵元と凌雅と別れた想と島津はナビに送られてきたタイランの位置へバイクを走らせた。古いビルが狭く並ぶそこにたどり着く前に島津はバイクを停めた。

「有沢。ヤクザだ」

 事件の騒ぎもあって人の少ない通りは、明らかにカタギでは無い雰囲気の男が数人立っている。それが更に人を遠去けているのかもしれない。

「どうして?『カラン』に寝返った奴とか?」
「様子見るにも近付かねぇとな。バイク停める」
「うん」

 島津がバイクを停めていると、見知った顔が想の視界に入った。古谷だ。想は思わず島津の背中を叩いた。

「島津!古谷さんがいる!」
「ハァ?!」

 ふたりがひそひそとやり取りをしながらタイランのいるビルに近付くと、ビルの入り口には古谷の姿が。数人のヤクザも。

「あれ…岡崎組の人だよ。見た事ある人いる」
「若林さんトコじゃねーかよ」
「どうして…」

 状況を把握し切れないふたりの会話をぶち壊すように『ガシャーン!!』と大きな音と共に窓ガラスが割れて、ビルの二階からオフィスチェアが降ってきた。

「全員ぶっ殺す!!容赦すんな!!」
「ぶっ殺しは禁止だ!捕まえろ!」

 響いてきた罵声は若林のものだった。それを制する塩田の大声も。想は隠れる事を忘れて通りに踏み出し、ビルを見上げた。
 想の姿を確認して驚いた様子の古谷と、島津の視線が合った。古谷は口元に人差し指を当ててふたりに『出てくるな』と示す。島津は頷いて想の手を引いて隠れるように身を屈めた。

「どうして『カラン』の場所が分かったの?」
「さぁな。俺たちが最前線だと思ってたのに…と言う事は?」
「…誰かが目星を付けてた?」
「それを若林さんが見つけたか、古谷さんが見つけたか」

 ふたりは同じ男が脳裏に浮かんだ。

「漣かな…」
「あり得る」

 相変わらずビルではあまり聴き慣れない破壊音や叫び声が聞こえるが、想は顔を少し覗かせて古谷を探した。

「タイランに合わないと」
「この状況じゃ厳しいんじゃねえの」
「…俺たち青樹組に目は付けられてるけど若林さんトコならみんな見ないフリしてくれるんじゃない?」
「ヤクザだぞ。日の浅いやつなんて金で幾らでも靡く。若林さんや塩田さんは絶対俺たちを庇うだろうから、迷惑かかるのは目に見えてる。組員だって表面じゃ良い顔してたって、信用出来るかよ。大崎だって、俺らより希綿を取ったろ。分かってたのに…」

 島津は険しい顔で低く唸った。その肩をポンと叩き、想は携帯電話を取り出した。

「そうだね、確かに。静かになったら若林さんに電話する。出来たらタイランに会えるし、ダメならヤクザに捕まっちゃったってイタリアさんに動画を送るね」

 身を隠しながら撮れる範囲でビルの景色を撮影し始める。縛られて表に引き摺り出されてくる『カラン』と思われるメンバーは、誰も彼も顔が分からなくなりそうな程にボコボコにされていた。古谷が顔写真を撮り、足首もガムテープで縛り上げている様子が見える。

「若林さん怖っ…」
「何人か死にそうだな」
「もう少し、静かになったら電話しよ」
「まー少し時間かかりそうだけどな」

 止まない騒音に、島津はポケットに押し込んでいた凌雅からのアメをそっと口へと入れた。








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