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 想は岩戸田を始末するつもりで必要なものを揃え始めていた。薬品、刃物、それから場所。普通の人間が得られない様な物も、密かに利用してきた想には代替品になる物が考えついた。ツテもある。
 古いコンテナの裸電球の下、道具を揃え終えた想が立ち上がると、仄暗い光が想の瞳に揺れた。

「…ごめん、島津」

 最初に出てきたのは島津の名前。彼は想が人を殺せば死ぬほど怒るだろう。抜け出せた沼に自ら戻る様な真似を友人思いの男が許すはずがない。リョウとの一悶着で壊れた携帯電話の代わりに古いものにログインした想は、島津とリョウに起きた事を古谷からの電話に折り返した際に知らされた。今、想の中に選択肢は消え失せていた。
 『カラン』との繋がりを吐かせ、殺す。岩戸田を、生け捕りにしたい青樹組には悪いが、首を届けてやろうと決めていた。大崎は青樹組サイドだと分かっていたのに、信用して裏切られた。許せないが、彼は希綿の懐刀だ。天秤にかけるとなれば希綿を取る。ならばこちらも手段など考える事もない。
 想は岩戸田を捕まえて大崎に連絡を取るつもりだったが、やめた。たとえ青樹組の怒りを買い、どうにかなるとしてもどうでもいいと頭の半分が未来を考える事を止めていた。
 想は古谷から新堂の容態も聞いていた。意識は無く手術中。即死では無かったことから頭や心臓を撃たれた訳ではない事は察することが出来た。けれど人間の身体の脆さを想はよく知っている。簡単に死ぬ。死なずとも、長い間、管と機械に繋がれて生きてきた双子の姉を思えば、そんな死んだ様な生かされ方はもう見たくはなかった。
 新堂がそうなったら?そんな彼を見るくらいなら死んだ方がマシだ。想の中では答えが出ている。 
 小さく息を吐き出し、岩戸田と対峙する瞬間を思い浮かべる。歳はとっているが、かつては武闘派と言われた男。スタンガンを一発で打ち込む事が最優先。

「でも…首を切り離すのは難しそうだ」

 大振りのナイフを手に取り、研ぎ澄まされた刃を指先で撫でた。皮膚に傷は見えなかったが刃から指先を離すとほんのりと血が滲む。想はそっと目を閉じて人体構造を思い浮かべる。骨、軟骨、筋繊維…隙間に刃をねじ込んで短時間で終わらせる。

「死にたくなるくらい後悔させてやる」

 小さな呟きに漂う殺意が電球の灯りと共に暗闇に溶ける様に消えた。









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