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「さて、俺たちはどうする?カズマが起きるのを待つしかねぇの?」

 島津は大きな溜息を吐き出しながらハイチェアに腰を下ろした。酔いも程よく回り終わり、少しのダルさが残っているようた。

「有沢は起きそうもないな。俺たちが来てもピクリともしてねぇし。珍しいから寝かしとくか」

 リビングからも見える寝室のベッドには顔まで包まって動かない塊がある。辛うじて見える髪の毛が何時もの赤茶ではなく黒でも、想のものだと認識できる程度だ。
 あんだけ急いで来いって言ったくせに…と眼を細める島津に大崎は苦笑いしか返せなかった。

「あはは、きっと大変だったんじゃね?タイランとも光島リョウとも接触したんでしょ?」
「…だな。よく無事だったわ。リョウはめっちゃケンカが強い。…つか、ケンカって言うより暴力に近いかもな。殴り合いなら勝てるかも知れねぇけど、あいつは普通に獲物使うようなタイプだ。特にヤクザになってからは何度もムショを出たり入ったりらしい。どう言うコネで出てくるか知らねぇけど」
「あーそっか、島津くんはカズマともリョウとも顔見知りなんっしょ?リョウは岩戸田の部下だとしてもカズマは何?愛人?」

 薬漬けの綺麗な男。大崎は岩戸田に男色の気があるとは聞いたことが無かったが、そう言う間柄なのだろうかと首を傾げた。想が男なりにも可愛らしさのある整った顔立ちだとすると、カズマは中性的で女装でもすれば女と間違われても仕方ないと思うような外見だ。女の相手も男の相手も出来そうな。

「…リョウとカズマは従兄弟だった気がする。リョウの方とは別段親しくもなかったけど先輩連中に絡まれたら何度か一緒にケンカしてたかな。カズマの両親は開業医だった。でも、ヤクザとの繋がりがあったみたいで、医療器具から薬まで色々調達と横流しをしてた。それが警察にバレそうになって、岩戸田は口封じにカズマの両親を始末したんだとか。新堂さんが調べてくれた話だと、カズマも消されるはずだったのをリョウは身を挺して守った。…岩戸田の言いなりだ。初っ端から誰かの身代わりで三年ムショ暮らし。出てからも汚ねぇ仕事させられ続けてるって訳。カズマは人質みたいなもんだろ。リョウは…カズマを好きだったんだと思う」

 中学生の頃はただ仲のいいふたりだと言う記憶しかなかった島津だが、想と新堂の関係を見ればあの当時からリョウとカズマは思い合っていたのだろうと思い返す。自分の人生を捨ててでもカズマを守ろうとしたリョウが、壊れるのも無理はなかったのかもしれない。助けたい人は永遠と岩戸田の手の中でいいようにされているのだ。いつまで?などと考えていては続かないだろう。リョウは岩戸田にとって便利な道具。カズマはリョウを使い続けるためのエサ。

「…一度カズマに相談されたことがあったんだ。両親が殺される少し前くらい。俺はあの頃からちょっと…変な連中とも付き合いがあったし、色々やってたからある意味最後の手段みたいな感じだったんだろうけど」
「…ほー、それで何を相談されたの?」
「『ヤクザから逃げるにはどうすればいい?』って。遠くに行けば?って当たり前の事、俺は返した。カズマは真面目な優等生タイプで普段は俺と接点もねぇのにいきなりそんな事言うから、俺の事バカにしてんのかと思ったよ」

 あー、分かるよ!と大崎が真剣に頷いた。島津が凄むと言葉を濁して大崎は眠るカズマへ視線を変えた。
 エサにされた男は、現状を変えるために新堂に話を持ち掛けたのかもしれない。島津にしたように、誰かに助けて欲しかったのだろうか。

「で、そこの彼は島津のアドバイス、聞かなかったん?」
「…カズマもリョウも学校に来なくなって、俺は別に興味もなかったからそのまま。でも、俺がヤクザになってすぐにふたりの事を知ったから驚いた。同じ白城会だったんだからよ。俺は会長補佐の新堂さん、リョウは若頭の岩戸田。何がどうなったか訳も分からねぇ。それで新堂さんに聞いた。たまたま有沢の面倒見る事になって会話する機会が増えたんだ。そうでもなかったら俺は今でもヤクザの下っ端だったろうよ」
「え!?そうだったん?へぇ…島津くんと有沢ちんは元々親しいんだとばっか思ってたし!」

 親しい。そう言われて島津は微かに口角を上げ、鼻で笑った。

「っは、そうかもな。…有沢はムカつく。でも信頼出来て、背中を任せられる奴だ」

 すっと目を細め、島津は一段と低い声で悔しそうに呟いた。

「だから…有沢がいたから今回もこの件に首を突っ込めた。ひとりじゃ無理でも有沢やみんながいれば出来るかも。あの時カズマのSOSを俺は適当に返しちまったから…」

 島津の言葉に大崎は伏せた視線を上げた。見た目は明らかに怖い雰囲気だが中身は本当に良い男だ。ヤクザだったとは思えない正義漢なのではないだろうかと、その肩へと手を伸ばす。

「修羅場に関しちゃ有沢ちんには敵わないけど俺もいるんすよ。蔵もっちゃんも、しっかり店を見ててくれる」

 岩戸田を見つけ出し、ふたりを奴から離したい。島津の目的を知った大崎は、彼が新堂に言葉を返した姿を思い出してどれだけ本気かを察した。自分が希綿の為、青樹組の為に本気であるのと同じだ。
 島津の肩をポンと叩いて視線を交えた。大崎は自分の中の士気が上がるのを確かに感じる。

「カズマを起こそう。待ってるなんて出来ないじゃん?」

 大崎はニッと笑みを向けた。島津はフッと沈みかけた気持ちを緩め、冷凍庫から氷枕を取り出し始めた大崎に同意を示し立ち上がった。
 





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