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「そんな顔するな。求められて嬉しいよ」

 新堂は俯いた想の頬を両手で包むようにして上げた。恥ずかしそうに視線を彷徨わせ、申し訳ないと言うように眉が下がっている。そんな想の表情に新堂は優しく囁きながら額を合わせ、瞼を閉じた。

「……す、するの?」

 想は至近距離にある新堂の顔を見つめた。目を瞑り、静かに動かない。
 だが、確かな熱と息遣いが想を益々滾らせる。先ほどの甘いキスを思い出せば、足りないと欲望が腹の底で唸っているようだ。身体が熱を帯びてくる。

「………、島津たちが…」

 たっぷりの沈黙の後、想は理性の一言を弱々しく呟いた。新堂は微かに口角を上げると、スッと目を開けた。

「あいつらは知っているだろ。俺たちのことを」

 新堂は言葉と同時ほどに想の腰をぐいっと掴んで引き寄せた。腰が密着し、はっきりと熱を持つ自分を知られて想は息を詰めた。驚いた顔で固まる。みるみる顔を赤くし、小さく首を横に振った。

「恥ずかしいのか?」

 耳元に唇を持ってきた新堂の声が想の脳を揺らす。

「いつもは大胆に誘ってくるだろう?」

 触れればもっとと、時には新堂の上を取って。
 けれどそれは絶対ふたりきりの空間でこそ出来ることだった。自分の全てを知っても相手はそれを受け入れてくれる。いつもは、その安心感が想に本気で求めてもいいと思わせてくれるのだ。
 セックスだけでは無い。人を傷付け、時には消し、最近では罪悪感も無くなりつつある現実。そんな薄情で人間味に欠ける自分を受け入れがたいと思っている想の黒い部分さえ新堂は分かってくれる。
 同じような汚れた道に居ても、外から見れば綺麗な部分を上手く歩く新堂は、想の手を引いてくれる。
 新堂ほどの人間は他にいない。想は何度もその存在と安心を感じる度に自分だけのものだという証しが欲しくなる。身体を繋げ合うのは自分だけだと覚えると、それが証しのように思えるのだ。
 想は暫く新堂と視線を交え、黙っていたが、ゆっくりと新堂の腰に手を回した。

「始めたら…途中で止めたくない。俺の身体なんて島津たちに見られてもいいけど、漣を見られたくないです」
「俺の大日如来なんぞよくあるもんだ。意味を持って背負ったわけでもねぇただの傷」
「だいにち…?聞いたことあるような、ないような…。綺麗だと思うけど、よく分からない…」

 困ったような想を新堂は笑い、頬に唇を寄せた。

「想の正直なところが好きだ。世辞なんていらん」
「俺は捻くれてます。お世辞なんて言える出来た人間じゃないです」

 新堂は少しばかりいじけた様な言い方をした想の唇を奪うと調理台に座らせたままズボンの前を開けた。下着を押し上げている想のペニスの先端を指先で押す。
 キスで塞がれた口から、くぐもった想の声が漏れた。
 じわりと液体が滲み出て、新堂の指を濡らす。微かに揺れる腰が、いやらしさだけではなくどこか愛らしささえ感じて新堂は唇を離した。

「立てるか?」

 想は微かに頷くと濡れた唇を舐めながら台から下りた。新堂は片膝を着くと想のズボンと下着をするりと脱がす。膝や内股にキスをほどこし、時折舌を這わせる。想はくすぐったさと微かな快感に甘い吐息を漏らした。性器への直接的な刺激が無い分、もどかしさも感じた。

「ふ、…っぅ…」

 新堂の唇が肌を滑るだけで鼓動がドンドンと大音量で想の脳内に響く。自分の足元に膝を着き、優しく触れる男を見下ろし、視線を外すことが出来ない。想はそっと新堂の髪に触れた。

「れ…漣…」

 名前を呼ばれた新堂が顔を上げた。
 色濃く欲情を滲ませるお互いの視線がぶつかった。
 お互い、普段は欲を表に出さない。周りにそう言わせるほどストイックな雰囲気を持っている。しかし今は女だろうと男だろうと誘惑しかねない色香を強く放っていた。

「…そそるな」
「は、早く…っ、島津たちが来ます…」

 想は手近にあったオリーブオイルを手に取ると、もうこれでいいからと言う様に蓋を開けて手のひらへと垂らした。
 自分の尻へと手を伸ばした時、想の手を新堂が止めた。オイルで滑る想の手を握り、滑りを借りると新堂の指が想の尻を撫でた。

「しっかり立ってろ」

 想はこくっと頷き、身体を新堂に委ねる。ゆっくりと入り口を撫でていた指が一本内部へと入る。異物感に想は眉を寄せた。しかし、ゆっくりとその指が深くまで入ってくると、ぞくぞくしたものが背筋を登る。抜かれる時は今以上の違和感を覚えるのだ。そして次第に快感がやってくる。それを知っている想の内部は新堂の指を無意識に締めては緩めてと繰り返していた。クチュ、ぬち、といやらしい音が時折聞こえる。息が上がり、前立腺が広がる様な不思議な感覚が想の下腹部を支配する。

「ん、ん…っんンっ!」

 新堂の指が前立線を掠め、想の腰が跳ねた。それとほぼ同時程に固く熱を持ったペニスを温かい口内へと迎えられ、想はおもわず目を見開いた。

「っいやだ、漣っ…、それ、だめだ…っやだ」

 腰を引こうとする想をちらりと見てから新堂は微かに笑うと音を立ててしゃぶり始めた。想は顔を真っ赤にして首を横に振った。内部の指が2本に増やされ、想は甘い声を切れ切れに漏らすしか出来ない。膝が震え、背後の調理台に着いた手も汗ばみ震えている。

「あっ…い、や…イく、っもう、ッぁあ…っ」

 想のアナルがきゅっと締まり、新堂の指を断続的な収縮が包む。吐き出された精液を新堂は飲み込み、想はその姿に身体中が沸騰する様に熱くなった。絶対に新堂は他の人間にここまでしないだろう。そう思うと上手く力が入らず、震える身体を無様に晒していても心は深く満足感の様なものに満たされていた。
 新堂が顔を上げ、想を見やると何とも言葉にし難い妖艶さと男の色気を漂わせている。

「…たく、なんて表情してやがる…」

 揶揄の様に聞こえたが、新堂の声は優しさを匂わせていた。
 
 




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