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 友隆が出て行き季節が秋から冬へ変わった頃になってもまだ、夏は彼と連絡がつかなかった。
 いつでも留守番電話。メールの返信もない。夏は嘉苗が言った『縁の切れ目』を思い出すばかりだった。
 けれど夏も弱いだけの人間ではない。嘉苗がしてくれたようにしつこく連絡を続ける。
 そしてAVのモデルは辞めていた。夏は友隆ときちんと向き合えるように、ケジメとしてそうしたのだ。気を引きたい、自分を見て欲しい、そんな気持ちで続けていた事に未練は無かった。
 馬鹿な事をしたと思わない事もなかったが、真剣にその仕事に向き合い取り組んだ事を嘉苗や新開に諭され、夏は過去も今の自分の一部なのだと思うようにしている。
 夏はソファに座り、一眼レフを磨きながら鳴ることのないスマートフォンへ視線を移した。

「なっちゃん、今夜は星がかなり見えるらしいよ。写真撮りに行く?嘉苗さんが夜空の写真欲しがってたよ」

 パソコンの前で作業していた新開が振り返り、夏に声をかけながらタバコに火をつけた。

「行く」

 ちらりと新開へ視線をやってから頷くだけの夏に、彼もまた頷き返した。

「…連絡、こないの?」
「うん…もう、会う気無いのかな…」
「なっちゃんが弱気になってどうすんの。言いたい事、全部言うんでしょ」
「言えるかな…」

 はぁ、と深いため息とともに俯いてしまった夏の頭に大きな手が乗っかった。

「言って笑えても、言えなくて泣けても、それはそれでいいんじゃないのか」

 夏は優しい新開の言葉に顔を上げる。否定的なことは言わない、前向きな言葉。

「言って、泣いちゃったらどうしよう…」
「その時は俺がなんでも聞いてあげるよ」

 そう言われた夏は安心を感じて微かに口端を上げた。新開に自分がその優しさをきちんと感じていると伝えたくて笑って見せたつもりだが、逆に無理をするなと頭を撫でられて苦笑いとなる。

「新開さんていつも優しい。俺のこと好きとか?」
「はは!年の功じゃないか?それに俺はなっちゃんのこと大好きよ」

 五つしか違わないじゃんか、と夏は笑ってしまった。随分と大らかでどんな言葉も嘘には聞こえない新開に憧れる。
 どんな素晴らしい生き方をしたらこう言う人間になれるのだろう。夏は沈みかけた気持ちもいつの間にか浮上している事に気が付いて、新開に笑顔を向けていた。
 カメラバッグへ磨いたばかりのカメラをしまい、何時にどこへ星空を撮りに行くのかと尋ねようとした夏のスマートフォンがテーブルの上で震えた。

「っ!」

 夏は反射的に電話を取り、耳元へ運んだ。

「友隆!電話遅いよ!」

 夏は眉を吊り上げて声を荒げたが、自分を見上げてクスクスと笑う新開が視界に入り、慌てて自制する。落ち着いて、友隆と会う約束を取り付けなければいけないのだ。感情的になっては負ける。夏は新開が居たことに助かったと小さく深呼吸して声を落とす。

「お願い、俺…どうしても友隆に話したいことがあるんだ。会えない?」

 あぁだ、こうだと会えない事を言い続ける友隆にしつこく食い下がり、二日後の昼になんとか1時間の約束を貰って夏は通話を終わらせた。
 電話越しにも分かる友隆の面倒臭そうな様子に心が負けそうになったが、何度も頼み込む夏の手を、いつしか新開は優しく握っていた。その手を夏は知らぬ間に強く握り返しており、話が終わった頃にはじっとりと湿っていたほどだ。
 それでも新開は静かにタバコを吸いながら、まるで夏を応援するようにそばにいた。

「あ…手、ごめ…ん」
「いいよ。頑張れた?」

 答えを知っていて笑みを向けて聞く新開に、夏はありがとうと照れ臭そうに笑みをむける。

「嘉苗さん出張中だからな。俺がなっちゃん支えたげないとね」

 タバコを人差し指と中指の間で遊びながら、裏表のないにんまりとした笑顔で新開は満足そうに紫煙を吐き出した。
 


 



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