「まぁ…そうだな。我が子みたいなもん」
「…我が子にこんな仕事させませんよ、普通」

 驚きよりも呆れたような顔で新開は嘉苗を見つめながら、どこか責めるような口調でつぶやいた。
 新開は声にしてから自分の言葉に思わず謝り、嘉苗に微かに頭を下げる。言葉を交わした訳ではなかったが、夏と身体を繋げた新開は夏の年齢の割りにセックス慣れした身体に驚いていた。まだビデオは3本メインモデルとして撮っているだけだと聞いたのに。

「よその会社で仕事するって言われてみ?苦肉の策ってやつよ、コレは」
「まあね、悪い所だとクスリやったりされますしね。俺は相手にしたことないっすけど引く位飛んじゃうらしいっすよ」
「うわー…流石、数こなしてる奴は噂の真相知ってんのな…」

 げんなりした嘉苗を見ながら新開は頭の隅で痛がりつつも最後は気持ち良くなって行くノンケやら本番なしと騙された人間を思い出す。こう言った仕事に契約書も無く出ようとする馬鹿はそうなるものだが、世間知らずとは恐ろしい。
 新開がぼんやりと編集画面を見ていると背後から声がかけられた。夏だ。
 振り返ると夏は服は着ていたが、濡れた頭にはタオルを被っている。シャワーから出て来て、新開に順番を知らせに来た。

「おつかれ」
「お疲れ様です」

 挨拶を交わした二人だが、新開が次の言葉を続ける前に夏は嘉苗の背後に抱き付いてコソコソと話し始める。クスクスと漏れる笑い声と、垣間見得た微かな笑顔に新開は可愛いと感じた。
 シャワーへ行こうと背を向ければ、その背に嘉苗の声がかかる。

「新開くん、シャワー浴びたら飲みに行く?」
「いいすよ」
「じゃあ待ってるからごゆっくり」

 返事を返す新開の姿を見つめていた夏の視線と新開のそれがぶつかり、夏は大袈裟なほど大きく顔を背けた。新開は一瞬あっけに取られながら、嫌われたかな?と苦笑いでシャワーへ向かった。




 駅前の居酒屋で夏と嘉苗、新開の三人は生ビールの並々注がれたジョッキをぶつける。嘉苗と新開は仕事の話で盛り上がっていたが、夏は二人の話を聞きながら視線は新開を捕らえていた。
 まるで変な物でも見ているかのような視線に、新開が笑顔で首を傾げる。

「なぁ、俺はそんなにいい男?」

 突然話を振られた夏はびくっと方を揺らして首を横に振った。

「失礼な奴だな」

 新開のいじけた様子に嘉苗が声を立てて笑い、夏は居た堪れずに俯いた。
 あんなに気持ちのいいセックスは初めてで、夏は他の人間と彼の違いは何なんだろうかと観察していたのだ。

「…やっぱり、数をこなしてるとあんなに上手いの?」

 夏の小さな声がふたりに届く。 聞いてから、新開のセックスが上手いと褒めていることに気付いた夏は益々俯いた。
 そんな夏の肩を隣に座っている嘉苗が叩き、呆れたように笑った。

「そうだよ。この新開くんはタチモデルとしてご指名かかる程のテクニシャン」
「そう。俺の天職」

 なんてね、と冗談交じりに笑う新開を夏の俯いていた視線が再び捕らえる。
 嘉苗と同じ程の年齢だが少し大柄で短髪にあご髭が似合う。ゲイかと言われるとそんな感じがするが、普通に爽やかな男だ。別段何か違う様子は無い。
 夏は本当に新開がセックスの技術を備えた男なのだと、二人の回答に頷いた。
 だが、嘉苗はぼんやりと夏を眺めながら口元に笑みを浮かべて続けた。

「本当に気持ちいいセックスって、やっぱり相性とか愛情とかが必要なんじゃねえの。新開くんどうよ」
「え!俺すか?!…まぁ、たしかに俺はいつでもとことん可愛がってあげる気持ちでやってますけど」

 言いながら新開が夏を見つめた。
 その言葉に夏はじわっと身体の熱が上がるのを感じる。確かに新開のセックスは極上だ。アナルを舐めまわされ、中に舌まで突っ込まれる。それからペニスをしゃぶり尽くされローションでトロトロにされたアナルをこれでもかと遊ばれ、最後は熱く長大な熱で胎内を埋められる。
 嫌だと感じる隙も、余裕も持てないその愛撫に夏自身飲み込まれてしまった。

「…よく分かんないな」
「普段は彼氏としねえの?」

 新開の言葉に夏は小さく息を飲んだ。プライベートでセックスしたことはない。好きな相手はまるで夏に興味は無いし、夏自身仕事以外で誰か他人と寝ることなど考えたことも無いのだ。
 答えない夏に新開はまずいことを聞いたかもしれないと話題を変えたが、夏は友隆のことを考え始めていた。
 彼とのセックスは新開とのセックスより気持ちいいのだろうかと。すると、好きな相手に愛される事を諦めなくてはならない現実が後から這い上がる。

「…夏くん、ビール追加するか?」

 夏は新開の言葉に頷きながら、自分は一生友隆と愛し合うことは無いのだろうと心を納得させ、ジョッキの底に残ったビールを喉へ流し込んだ。
 




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