バスルームに木霊する甘い息遣いと、肌の合う音がゆっくりと引いていく。

「……腰が……、う……」

 想が申し訳なさそうに弱々しく言うのを笑って、新堂はゆっくり想を座らせ、シャンプーを引き寄せた。

「少し休んでいれば大丈夫だ」

 シャワーが降り注ぐ中、フルーティーな香りのシャンプーで髪を洗われて、想は心地よさに目を閉じた。
 初めてセックスした後もこんな風に髪や身体を洗ってもらった気がすると思い返す。あの日は散々だった、と想は新堂に身体を預けたまま眠気と闘った。









 岡崎組の北川組長に家族がバラバラになりなった事の始末をしてもらった代わりに、想は汚い仕事を始めた。
 想自身、よく分からないままナイフやアイスピックを手にして、人を見つめる日々に困惑ばかり。
 岡崎組で若頭を務めていた若林は、何度も組長に掛け合い、想を裏の仕事から遠ざけようとしていたが、それが聞き入れられることはなく一年が過ぎた頃だった。
 岡崎組の中にも派閥が三つありその一つは若林のものだったが、もう一つは二井田(にいた)という男がしきっていた。その部下が黙ってもぐりのホストクラブと風俗店を経営してた。そこで作った金を北川に納めてボスであるはずの二井田を下ろす為。二井田は慎重な男で野心は薄く、安定を求めるような男だった。派閥はあったが、そんな二井田は争う気も無く若林とも良好な関係を築いていたのだ。
 そんな裏切りの臭いを嗅ぎ付け、若林が部下と想を使って真相を探り始めた。
 弱気で出世欲のない二井田を気に入らない部下数名の離反的行動だったが、たれ込みがあったことから結束力はあまりなかったと言える。部下のうち一人を想が締め上げ、粗方の計画と首謀者が割れた。
 命までは奪う必要はないと言われた通り、想は必要なことを指示通りに済ませて下っ端を解放した。首謀者は数日後に哀れな末路を辿ることとなるが、離反した部下の一人、袖山は裏切り行為が暴かれた後に姿を現した。
 想は若林の事務所の前で、すぐに戻ると言った彼を待っていたときに袖山に詰め寄られた。
 胸倉を強く捕まれ、ものすごい剣幕で罵られる。
 想が拷問した男が自殺したらしい。首謀者が捕まってしまったのは想の所為だと言う。想はそんなことは自殺を選択した者の責任だから関係ないと反論したが、相手は納得など微塵もしなかった。自殺したのは目の前の男、袖山の兄弟だったのだ。

「お前だけは許せない!」

 憎悪の眼差しに想がたじろいでいると、数人により黒いワゴン車に詰め込まれてしまった。その後は想像していた通り逃げられないように足を刺され、殴られ、蹴られ、先の展開を想像して想は春のことを考えていた。
 動いているのは心臓だけの春。
 声も視線もずっと感じていない。自分が死んだら春も殺されてしまうのは確実だ。春を生かすのは想が北川組長のために働き、彼の役に立っているから。
 守ろうとしてくれる若林から口出しをさせない北川組長を間近に見れば、利口な想は早々にそれを感じ取っていた。
 北川が支配者。
 春を求めて目を開いても目隠しされていて視界は真っ暗だ。

「おい!まだまだだぞ」
「楽に死ねると思うな!」

 物騒なことを言っているな……と他人事のように想は思ったが、ベルトを引き抜かれて身体を強ばらせた。男たちの卑下た笑い声から、もしかすると性器をいたぶられるかも、と痛い想像をして想は溜め息を吐く。
 死に対する恐怖や殴打、切り傷などの痛みには耐えられそうだが、与えられたことのない痛みは少し怖かった。
 身体を強張らせて息を乱した想の顎を乱暴に掴んでひとりが耳元で笑いを含む声で怒鳴った。

「伊藤はお前みてーな面のいい男の穴が好きなんだとさ!かわいがってもらえよ。最後はバット突っ込んだまま捨ててやる!」
「……ははっ。それ、笑える」

 男の言葉に想がバカにしたように言うと頭を蹴られる。膝立ちの状態で手を片手ずつパイプの様なものにビニール紐のような物で縛り付けられているため、頭へ、モロに入った一撃に脳が揺れた。

「こいつ!死ね!伊藤、早くやっちまえや」

 ふと嗅いだことのない香りが鼻先にあり、顔を背けたがだいぶ吸った後だったのか、身体が熱くなる感覚に想は歯を食いしばった。興奮剤の様なものだろうか。セックスドラッグなど所詮雰囲気を盛り上げて少し感度を上げる、そういったものだ。口にも錠剤を入れられたが、即吐き出し、再び頬を殴られる。

「へ、どうせ殺すんだからいいか」

 口に液体が注がれて想は咽せた。目隠しをされていた想には分からなかったが、それは度数の高そうな酒だった。
 飲酒など殆ど舐める程度しかしたことのない想は喉が焼けそうな感覚に何度も咳く。ズボンを下着ごと下ろされてアナルにも無理やり液体の着いた指が何度も出入りする。痛みしか感じていなかったそこも、酒だったのか、ただ熱いばかり。
 大して解されてもいないアナルに酒に濡れた細身のバイブが無理矢理挿入される。想は、呻いて身体を強ばらせた。











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