「……焼き肉か。髪が匂う」

 色気がないな、とおかしそうに笑って新堂が想のワイシャツのボタンを外す。普段冷たそうな印象の新堂が笑うと女性はイチコロだろうと想は思う。見た目も頭もいい新堂が極道だなんて誰も一見思わないはずだ。
 現に想自身も彼に何故ヤクザなのか聞いたこともあった。「恩」だと言っていたが、詳しくは話されなかったので触れていない。若林もそうだが、しがらみが多い事は理解できた。

「先にシャワー浴びるか?」

 シャツをはだけられて鎖骨辺りを指先で撫でられ、そこばかりを強く撫でる彼に視線で尋ねると「血が付いてる」と言われた。
 顔はサイドミラーで確認したが、こんな所にまで返り血が点いているのは気が付かなかった。
 黒いスラックスも見た目は分からないが、洗えば水は薄紅に染まるだろう。想は頷いて新堂の首に再び腕を回した。

「一緒に入りますか?」
「そうだな、洗ってやろう」

 バスルームは黒を基調としていた。熱めのシャワーを先に頭から被っていた想は薄い灰色の床を伝い排水溝に流れていく温水を無表情に眺めた。ほんのりピンクのそれはすぐに透明になっていく。
 想が掌を見ると綺麗な筈の手は血に汚れている。
 バスルームの扉が開いて新堂が想の背中に触れた。冷たい手に目を閉じると首筋にキスをした新堂の手がゆっくりと下になって流れて腰を撫でる。

「仕事が入ると思ってなくて、六時頃に処理してきました。お腹空いてさっき食べちゃったけど……」
「俺がしたかった」
「変わってます」

 バスルームにあるローションを取り自分のアナルへ塗り込もうとした想の手を止めて新堂の長い指が侵入する。
 もう慣れた感覚だが何度しても最初の違和感に背筋が冷える。新堂は想の性感体も知り尽くしており、簡単に快感を引き出す。
 壁に手を付き腰を新堂に差し出しながら呼吸が上がって身体が熱くなる感覚に想は目をきつく瞑る。同じ様に唇も閉じた。

「……名前を呼んで、どうして欲しいか言え」
「っ、新堂さ……ん、の入れて」
「入れて?」
「好きに、して……ください……」
「好きに?」

 聞くな!と内心怒鳴りながら、自分達の関係は恋人でも愛人でもってなく、自分が望み、それに応えた支配者側の新堂の気まぐれで続く関係なのだから何でも言う通りにしなければと思うのに、羞恥心は捨てきれない。大人の男なら尚更だ。

「あぁッ……ん、やだ……指、やめてくださ……ぃあ、あ……」
「此処が好きだな。俺の好きにしていいんだろ?」

 ぐちゅ、と厭らしい水音がやたら耳に響いて余計に感じてしまう。壁にある指先に力が籠もる。前立腺ばかり責められて足が震えていた。想は声を耐えながら新堂が満足するまでだ、と自分に言い聞かせる。

「なぁ、もっと可愛く求めてくれたらやりやすいのに。そんな険しい顔して快感と向き合わなくてもいいだろ」

 背後で溜め息が聞こえて指が抜けた。力の抜けかけた身体を反転させれた想は新堂と目があった。優しさが伺える眼差しに戸惑って視線を逸らして熱く猛る新堂のペニスに触れた。

「…早く新堂さんでいっぱいにして」

 『可愛く求める』という要求に対する想の精一杯の答えたに新堂は小さなため息を零した。想の片足を上げて腰を支えてやり奥まで捻り込む。いい具合に締め上げるアナルに口端を上げてゆっくりと腰を使うと、想の眉が悩ましげに寄せられ、甘い息が形のいい唇から漏れた。バスルームに二人の息遣いと卑猥な水音、肌の当たる音がシャワーに負けじと木霊のように響く。

「想」

 新堂にしがみついたまま何度か頷いた想がうっすら目を開けると、壁の大きな鏡に映る新堂の背中に視線を奪われた。時々目にする蓮の花と仏様が美しく佇み此方を見ている。そこに触れると自分の薄汚れた手がその瞬間だけは綺麗になる気がして想は何故か涙が滲んだ。新堂に触れられている時は汚れた自分の手を忘れていられる。

「ひ、ぁ……っ!」
「考え事とは余裕だな」

 新堂に抉られる性感体からの刺激に達したしまった想は、終わらない律動に首を横に振った。
 肌を打つ音に比例するように想は声を上げる。
 浅くくぽくぽと抜き差しされると腰が砕け、深くまで強引に捩じ込まれると腰が浮くほどの快感に、想は歯を食いしばった。

「や、やだ……っぅあ、いく、……っ!」

 すぐに二度目の絶頂が想の身体を支配する。甘く、熱い感覚が結合部から広がる感覚に唇から伝う唾液を拭う事も出来ない。殆ど新堂に支えられて体勢を維持している想は、深くなる侵入に力無くいやいやと首を振る。なかなか達しない新堂に想はうわ言のように何度も名前を呼んだ。

「れん、おねが……れん……っ!!」

 助けて、と懇願するように繰り返す想に深く口付けて一層強く奥に打ち込むと新堂は一気に引き抜いて想の腹部へ精を吐き出した。
 想の身体がビクッと大きく跳ね、彼の小刻みな呼吸が甘く新堂の鼓膜を揺らした。

「想……」

 荒い呼吸を繰り返しながら自分にしがみついている想を呼ぶと彼がこちらを見た。頼りなさげに新堂を見つめる瞳を安心させるように優しく抱きしめ、唇を合わせた。







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