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 クラークの報告にソイルは頷いて、住所のメモを受け取った。

「そうだ。コリンが帰ってきたらソイルの職場にバーガーを食べに行きたいって言ってたよ」
「え?ああ、いつでもくれば」
「なんかいいね。ソイルがいつでもこの街で待ってるって思うと帰る場所って感じがする」

 ふふ、と声を漏らして心底楽しそうに笑うクラークに、ソイルは照れ臭くなって眉を潜めた。

「だめだろ、一箇所に留まったら…」
「ソイルはずっとここにいるんだろ?」
「俺は…もう、大仕事はしないもんね」

 ペロリと舌先を覗かせ、ソイルは上着の内ポケットをちらりと見せた。

「手癖悪いよ。彼に知れたら怒られるんじゃないの」
「ちゃんと財布はそれぞれに返したから。それに、ここに居る人間はこのくらい無くなったって対したことないだろ?普段金持ちはお金なんて持ち歩かないのに、現金取引があると財布の紐が緩むのかね」

 豊かになった懐をポンと叩いてソイルはさりげなくウインクをしてみせた。

「悪い子。ま、そういうところが好きなんだけどね」

 クラークが通りかかったウエイターからシャンパンをふたつ受け取り、ソイルに差し出す。

「上手く行ってるの?俺はいつでも遊んであげるからね」
「あはは、うん…あんまり前と変わんないよ。…でも、それがいいのかも。あ、ちゃんとセックスもしてるからご心配なく」
「へえ、あの人うまい?淡白そう。イヤ、逆に絶倫かな?」

 クラークの言葉にソイルは吹き出しそうになり、慌てて口元を押さえた。絶倫か、と口端を上げるクラークを睨み付けたところで、四十代ころの女性がクラークを呼んだ。髪から足先まで美しく手入れされた若作りの美人にクラークが微笑みかける。

「御主人様がお呼びだから行くね」
「あのオバサン…飼い犬に噛まれ続けてるとも知らず…ニセスマイルに騙されちゃって」
「人聞き悪いな。彼女のことはちょっぴり尊敬してるよ?甘噛みだし。それに、いつでもあっちから別れるって言わせてるよ。その方が後腐れないからね」

 だから?と呆れるソイルの頬に軽いキスをして、クラークは人の輪の中心に居る女性の元へ向かった。
 クラークと女性の仲の良さそうな様子に、あれが嘘だと思うとどこか遣る瀬無い。
 クラークは質のいい生活と上流階級の人間たちの付き合いの流れ、金の動きを探るために転々と相手を変える。また、あの女性はどんな場所に連れて行っても見栄えが良い教養のある若い男、クラークに癒しを求めている。お互いが好きと言う気持ちより、求めるものが違うのだからある意味バランスが取れているのか?とソイルはシャンパンに口をつけながらぼんやりと考えた。ソイルはギロアに何か得を求めているわけではない。ただ、そばに居てドキドキして、安心して、なんとも言い表すことのできない気持ちで満たされる。ギロアにとってソイルと居ることは何も特にならない。それでも一緒に居るのは、何故だろうか。

「んん!!このソース美味いな」

 テーブルに置かれた軽食を眺めていたソイルは小さくカットされたステーキをひと串食べ、パッと目を輝かせた。今晩はミートローフにこんな感じのトマトソースにしようと決め、人混みの中をゆっくりとすり抜けて会場後にした。
 
 




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