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 ソイルは舌を出してギロアの様子を伺うように少し冷たい唇を舐めた。少し顔を離し、一度は受け入れられることのなかったキスの続きを望むように見つめた。

「好きでもいいだろ…?」
「あんまり…好き好き言うなよ」

 ったく、と眉を寄せたギロアだにソイルは、なぜだ?と視線で訴える。言わなければ伝わらない。ソイルは少し眉を寄せた。

「はぁ…ホントにお前って不思議だ。俺は今までも男からアピールされたことくらいない訳じゃない…が、不愉快だった。なのにお前ときたら恥ずかしげもなく好きだとか。どうかしてるぞ」

 ギロアの物言いに、ソイルが反論しようとしたがそれはギロアに封じられた。顎を掴むように上に向かされ唇を塞がれ、熱く滑る舌がソイルの舌を追う。一瞬固まったソイルだが、すぐに求めるようにギロアの首へ腕を回して舌を差し出した。
 不規則な息遣いと、微かに漏れる水音に二人の身体も一気に熱を上げた。ゆっくりと離れる唇をソイルは名残惜しそうに見つる。

「不愉快じゃないって思った時点で俺の負けだったのかもな。…正直、懐いてくるのが心地良かった」

 眉を下げギロアがポロリと零した言葉に、ソイルは微かに笑みを浮かべて首へ回した腕へ力を込めて抱き着いた。その身体をギロアは受け止め、すぐに後ろのキッチン台へ座らせる。いつもはソイルが見上げるはずの高さの視線が合い、勝ち誇ったように笑みを深めた。

「頑固オヤジ」
「あ"ぁ?」
「…嬉しい。あんたが無事に居てくれてさ」

 ソイルは顔を隠すようにギロアの肩へ寄せ呟いた。

「おまえ…」

 照れたような声音に、ギロアは調子を崩され言葉を詰まらせる。反抗的で憎まれ口ばかりのソイルが時折見せる素直な言葉には不思議な魅力のようなものがあった。それはソイルがギロアに真剣に好意を告げるときと同じで、深く浸透して行く感覚だ。防ごうにも防げないモノに、ギロアは瞼を閉じて大きく溜め息を吐き出した。

「俺と居てもいい未来は無いと思うぞ」
「俺と居ればきっといいことあるよ」

 ギロアの言葉を否定し、ソイルは肩に顔を埋めたまま目を閉じた。ひと呼吸おいて静かに顔を上げたソイルは真っ直ぐにギロアを見つめて、目元を細めた。

「お願い。一緒に居てよ。出来るだけ長く、俺と」

 どこにいても、あんたが忘れられないんだ。ソイルが言葉にすると、ギロアもソイルの言葉に触発されたように口端を上げて微かに頷くと、ゆっくりと唇を近づけた。

「俺で…よければ」

 微かに触れた唇に、お互い目を瞑って深く求めるようにキスを変える。一気に身体の熱が上がり、ソイルは腰が甘く重たくなる感覚に悩まし気な吐息を零した。ソイルが続きを求めるようにギロアのジャケットを脱がせる。バサっと床に落ちる音を耳に受けながら、ソイルはハッと顔を離した。

「どうした?」

 ぐい、とソイルの顔と腰を引き寄せ、ギロアはソイルを探るように見た。

「………」

 ソイルはその視線から逃れるように俯く。顔はどこか暗い。
 ソイルは自分の身体を思い出して、とてもギロアに見せたくはないと拒否反応が現れた。辛い時でさえ欲していた存在が現実に腕の中にあるのに、自分を晒すことが怖い。ソイルは唇を噛んだ。
 アロンゾの元から助けられてからも、独り寝が辛い時はクラークのベッドへ潜り込んでいたソイルだが、一度もセックスはしなかった。今までであれば、戯れのように身体を繋げたし、クラークであれば身体を見せても不安はなかった。それはソイル自身がアロンゾから逃げ切ったと思っていたからで、再びゾウのパジャマを着せられ子供のベッドで目覚めた瞬間、逃げ切ったという言葉は打ち砕かれた。どこに居ようが逃げようが、簡単に引き戻される。それはアロンゾが死んでも、彼によって施された可笑しな身体を見れば蘇る。
 ソイルは熱くなっていた自分の全てが急激に冷めて行くのを感じて、恐怖からギロアへ縋るような眼差しを向けた。
 望んでいた筈なのに。ソイルの目尻が潤むのを見たギロアは、目元に唇を当てながらその腰を引き寄せた。お互いの腰が密着し、ソイルは息を飲んだ。

「…あ、れ?」

 勃たない。と聞いていた筈のギロアの股間は硬く主張していた。

「あれは嘘だ。おまえが言うように、俺は誤魔化した。おまえの言葉に向き合わないように」

 ギロアの眉が申し訳なさそうに皺を寄せるのを見たソイルは、微かに笑い声を漏らした。緊張と不安が滲むように解けて行く。

「俺…」

 小さな声で話そうとしたソイルだが、言葉が選べない。子供のように無毛な脚や下腹部。自分では滅多に見ることのない汚れた背中。どんな言葉で説明すればいいのか分からない。

「電気、消そうよ」

 現実から逃げることに決めたソイルのひと言にギロアは微かに笑ってソイルの震える唇を親指で撫でた。






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