42




「全部見せろ。これから、ずっと一緒に居るつもりなら」
「っ、だけど…」
「ソイル。ソイルを知りたい」

 真摯な雰囲気を纏う声音に、ソイルは押し黙った。おとなしくなったソイルのストライプ柄のシャツのボタンを外し、脱がし始めたギロアは、肩のガーゼを見て手を止めた。

「肩、どうした」
「あ?あぁ…ちょっと騒いだらトバルコに『お黙り』って撃たれた。酷いだろ?けど平気。動かすのが痛いだけで傷は塞がりかけてる」

 ソイルは努めて明るく言ったが、ギロアの眉間には深く皺が寄る。小さな溜め息を吐き出して、シャツを戻し始めたギロアの手を慌ててソイルが止めた。

「ちょっ…大丈夫だって!」
「脚も撃ってやりゃあよかったな…」

 これから忙しくなるであろうトバルコが歩けなくては不便かと、ラシャといういい右腕を考えて肩を撃ち抜いたが、思いやりなど必要無かった様に思えてギロアは目を細めた。
 ギロアの独白にソイルは瞬きを繰り返す。なに?と眉を潜めると、ギロアは気にするなと微かに口端を上げた。

「まあ、よくもそんな肩で引越しなんてしたな。ソファは俺が運んでやるから荷物の整理でもしてろよ」
「は?!…ンなことどうでもいい!」

 すっかりシャツのボタンを留めてしまったギロアを怒鳴りつけ、ソイルはギロアの腕を振り払って腕と首を抜くようにシャツを脱ぎ、床へ叩きつけた。途中、無理に腕を抜いたため肩が痛んだが歯を食いしばってやり過ごす。ベルトを抜き取り膝を立てて下着ごとズボンまで脱ぎ捨てた。微かな羞恥にほんのりと顔が赤くなる。

「おい、こら…」

 言葉を遮り、ソイルはギロアの唇を舐めながら彼のアンダーシャツを脱がせた。

「見せろって言ったのはそっちだろ。あんたも見せて」

 肩は平気だから、と微笑む。じゃれつきながら、いつものように誘えばいいと自分に言い聞かせるのに、僅かな戸惑いを感じてソイルは緊張していた。クラーク相手ではないことが、何故ここまで変わってしまうのか。ギロアの視線や動きに一々反応してしまう。その反応はただの緊張ではなく、微かに興奮をもたらしていた。

「…俺、変だろ。あんたに触ってるってだけで、こんなになってる…」

 ソイルは視線を逸らし、硬く立ち上がる自分のペニスを隠すように、肌が触れる距離まで身体を寄せた。そのままギロアのベルトを緩め、隙間から手を侵入させて下着越しにペニスを撫でた。
 自然と抱き合う形で、ギロアはソイルの背中を抱き、肌の温かさに目を閉じた。手のひらを滑らせると、そこには不自然な線がいつくか指先に感じ取れる。ギロアのペニスに触れるソイルの手が、微かに震えていた。

「…俺の脇腹、触ってみろよ」

 ギロアの優しい言い方に、ソイルは言われるがまま手を移動させた。少し凹凸がある傷の様なものに、僅かに息を飲んだ。

「どっかのヘタクソがチグハグに縫いやがって」

 笑を含む言い方にソイルは思わずゴメンと謝っていた。この傷はソイルと出会った時の爆発時に刺さった破片の痕を、ソイルが縫ったものだ。傷の縫合など経験の無かったソイルだが、あまりにも開けた傷だったためギロアの携帯していた応急キットで適当に行った。
 思い返したソイルは乾いた笑いで誤魔化しながら、そっとギロアの表情を伺った。

「ふ、塞がってよかったね…?」
「あぁ。お前の傷も塞がってるよ。大丈夫」

 ギロアは目を閉じたままソイルの背中を強く抱き締めた。ソイルはその腕の強さにホッとして頷いた。

「あんたの腕の中、安心する…けど、足りない」

 顔を上げ、ギロアへ熱の籠った視線を向ける。ソイルはキッチン台に座りギロアと身体をくっつけたまま、まだ整理されていないキッチン用品の詰まったダンボールを引き寄せ、中からオイルを手探りで持ち出した。

「すぐ、慣らすから」

 顔を赤くしながらオイルの蓋を開けるソイルの手からギロアがそれを取り上げた。

「その肩じゃやりにくいだろ」

 え、と言葉に詰まったソイルは自分の肩を見た。確かにやりにくいが、ギロアは同性相手にセックス経験があるようには思えず、心配そうに視線を泳がせた。

「お、女じゃないから…やりにくいかも」
「まあ、あんまり期待しないでくれると助かるね」

 遠回しに無理するなと伝えたつもりだったが、ソイルの言葉は上手くかわされる。ギロアは手にオイルを多めに垂らしてソイルの尻の隙間へ濡れた指を這わせた。ソイルは背中を後ろへ預け、脚を拡げて少しでもやり易くなればと恥ずかしさを堪えて目を伏せた。頬を染めながらも積極的で、反抗的な言葉も減ってきたソイルにギロアは内心微笑ましく思った。
 



text top

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -