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 ガシャガシャと鎖が擦れる音と、アロンゾの罵声がソイルの鼓膜を揺らす。抵抗の声は喘ぎに変わり、今は枯れた様な声と荒い息が断続的にソイルの唇から漏れていた。薬の力は意志も自由も始めから無かった様に全て奪う。

「どうだ、イイだろう?」
「う、あ"、…あっ、ん"ん」

 ソイルは言われるがままに何度も頷くが、敏感な部分を容赦無く抉られて喉を反らす。我を忘れる程の快感に、ソイルの身体は跳ね、吐き出すものが減ってもペニスは熱く起ち上がる。アロンゾ自身も何か摂取しているのか、なかなか萎えず何度もソイルの体内へ精液を吐き出し、それでもまだ足りないというように腰を振った。

「ははは!緩んできたぞ!もっと締めろっ!」

 バチっとソイルの頬を叩き、アロンゾがソイルの首をベルトの上から押さえ付けた。
 ソイルは抵抗もせず、それを受ける。ぐっと喉が締まり、虚ろだった表情が僅かに歪んだ。喉を潰される程強く押さえつけられ、痛みからか苦しさからかソイルの頬を涙が伝う。アロンゾは締まりを取り戻したアナルに口端を上げるとベッドを軋ませる程の激しく腰を打ち付けた。ソイルのアナルはアロンゾの精液で粘つき、互いの肌が離れると白く糸を引く程ぐちゃぐちゃだ。
 ソイルの意識が飛びかけた時、アロンゾはソイルの首から手を離した。反射的に噎せるソイルは無意識に身体に力がこもり、アナルはアロンゾを締め付ける。獣のように声を上げたアロンゾは遠慮なくペニスを奥へ捩じ込んだまま達した。すでにソイルのペニスは萎え、時折びくっと身体が反応をするだけで意識はない。涙や唾液で汚れた顔を、アロンゾはベロりと舐めた。
 少しの間、ソイルの顔を舐めていたが反応が無い事に不機嫌そうに舌打ちし、乱暴にソイルの身体をうつ伏せにひっくり返した。意識の無いソイルの腰を抱えると精液濡れのアナルヘ再びペニスを押し込む。愉悦の表情を浮かべ、腰を揺らすアロンゾの目に古い傷が筋のように残る背中が映った。そっと指先を這わせ、無感情に眺めていたアロンゾはそこに爪を立てる。

「スペンサーか。…奴ではなく僕がやるべきだった」

 ギギ、と思い切り力を入れて背中に爪痕を遺し、アロンゾは何度も皮膚を傷付ける。微かに血が滲み出し、満足そうに笑った。

「くくっ、お前のことは可愛いが、やはりもう年を食い過ぎた。優しく可愛がれないのはその所為かな」

 アロンゾはソイルの腰を支えていた手を離し、己のベルトを引き抜くと半分に折る様に持ち、思い切りソイルの背中目掛けて振り下ろした。

「ーーーいぁ"っ!」

 強烈な痛みにソイルは意識を戻した。混乱しているソイルに追い打ちをかけるようにアロンゾのベルトが二度、三度と背中を打つ。

「よくも!僕から!逃げたなっ!」
「んん"っ!ん、っ」

 ソイルはシーツを噛み痛みを耐えるためにきつく目を瞑った。強い痛みに混濁していた意識をしっかり取り戻したソイルは腰を振ってアロンゾのペニスを抜いた。それが気に食わなかった様子でアロンゾは更に強い一撃を食らわせた。

「許しでも乞いたらどうだ?可愛くねだってみろ」
「…しね」

 己を取り戻したソイルから微かに絞り出すような声が漏れ、アロンゾは怒りをあらわにうつ伏せのソイルを仰向けに返し、ベルトを振り上げた。
 痛みを想像してソイルが身体を固くしたとき、控えめにドアがノックされた。アロンゾはソイルに馬乗りになり、息を荒げてベルトを振り上げたまま何事かと外に聞いた。

「客が来てますよ」
「今は取り込み中だ!」
「…それが、トバルコ・ガルニフ本人が…」

 トバルコの名前にソイルは閉じていた目を開けた。己を見下ろすアロンゾと視線が合いお互い探るように数秒睨み合う。

「お前が呼びつけたか」

 アロンゾの問いにソイルは微かに首を横に振る。

「何故奴が僕に会いにくる?お前以外理由はないだろう?」
「しら、ない…」

 ソイルの掠れた声が弱々しく答える。アロンゾは数秒考えてからソイルの上から退いた。

「まあいい。お前の生存確認でも取れたかも知れん。始末の話か、身柄を譲れとでも言う話だろう」

 アロンゾはぶつぶつと思案しながら乱れた服装を整え、部屋を出て行く。ソイルは解放されたことに大きく息を吐いた。

「…殺される…」

 トバルコがソイルの生存を知ったのなら、情報漏洩を危惧してソイルは始末される。アロンゾはもしかしたらしらばっくれるかも、とソイルは痛む身体をゆっくりと起こした。可愛がるための子供にぶつけられないサディスティックな欲求をぶつけることのできる人形が自分だろうとソイルはアロンゾの言動などから推測した。少なくとも執着心を感じる。簡単にトバルコに引き渡されはしまいと自分に言い聞かせた。
 身体中が痛みに震えていたが、ソイルは歯を食いしばりベッドのシーツを剥ぐと身体を拭き始めた。体内に出された精液を出来る限り出し、捻れたために腫れている右足首をそっと撫でた。

「くそ…めちゃくちゃ痛ぇ」

 腰も、尻も、背中も。ソイルは情けない自分の有様に体を丸めた。
 小さい頃もこうして現実に向き合いたくなくなると膝を抱えて丸まった。そう思い出してソイルは慌てて膝を離す。こんなところにずっと居るつもりは無い。逃げたい。けれど、出来るとは思えない。逃げ出せたとしても、また仲間が傷付くかもしれないと思うと、ソイルの思考が鈍くなる。クラークにコリン、ギロアの姿がちらりと浮かんだ。

「……ムリだ…」

 少しずつ、ソイルの中を諦めに似たものが覆って行く。アロンゾから逃げられてもトバルコに見つかるかも分からない。かと言って大人しくアロンゾのサンドバッグ扱いを受け入れ続ける自分を想像してソイルは吐き気が込み上げた。
 賃金は安くても普通に働き人と関わることを知って、充実を感じた。胸が痛くなるほど誰かを好きだと、好きになって欲しいと思った。友達と過ごす自由な時間が何より楽しいのだと知った。まだ何も満足出来ていない、捨て切れないそれらを、どうすればいいのか。
 ソイルは諦めたくないと思う自分をどこか遠くで馬鹿だなぁと感じた。楽になればいい。そんな囁きが脳を優しく誘惑する。
 ソイルは壁に背中を預けて狭い部屋を見渡した。右端からゆっくりと壁紙の星を数え始める。アロンゾだろうとトバルコだろうとどちらでも構わない。早く、諦めたくないと踏ん張る馬鹿な自分を始末して、どうにかして、と縋るように壁紙の模様から監視カメラへ視線を変えた。
 

 
 




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