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「よ。顔色イイじゃん」
「おかげさま」
「ダローシュとグレン、よく撃退したな。ボスのお宝相手に手ぇ出して返り討ちなんて、言えねえもんな」

 喉で笑うような変な声に、ソイルは微かに笑みを返した。
 当番制だという男が三日ぶりにソイルの部屋へ朝食を持ってきた。身体の怠さは薄れたがソイルは足が繋がれているため、ベッドの上でもぐもぐと口を動かす。手首も外されることはなく、首への鎖も健在だ。そんな状態だが少しでも体調を整えて、逃げ出す機会をと、そのために出される食事を食べ、動かせる範囲で身体を動かす。

「そういや、今朝早くにボスが帰った」
「へえ…」
「俺はリーセル。味方じゃねえけど敵でもねえから、なんかあったら言えよ」

 リーセルはベッドに座るソイルの肩を二回叩き、部屋を出ようと背を向けた。

「待って」
「あ?」
「俺を逃がせなくても、リーセルは外に出られる?」
「当たり前だろ。当番の日だけだ、ここは」
「俺の金が…口座の番号教えるから、引き出してくれよ。半分やるから」
「半分ていくら?」 

 リーセルは首だけ振り返っていたが、身体ごとソイルに向き合うと腕を組んで微かに首を傾げる。ソイルはトバルコの元で使用していた口座の番号を思い出しながら80万ドルくらいだと答える。リーセルは感嘆の声を漏らして先を促した。

「それが本当だとして、なんでそんな大金を持ってんだ?俺になにをさせてえって?」
「…人に会って、一言伝えて欲しい。俺、闇バイヤーだったから金はそれで稼いでた。もし、そっちの口座が固まってたら、その人に俺からだって言えば40万くらいすぐに揃えてくれる」

 現金で?と驚くリーセルに、ソイルは真剣な顔で頷いた。

「…ボスはお前の仕事知ってんの?おとなしくもねぇし、一般人っつう感じでもなかったがそういうことか。いいぜ。場所と伝える事は?」

 ソイルは軽く引き受けるリーセルを疑うように見つめた。その視線を正面から受け止め、リーセルは小さく息を吐くとやれやれとポーズした。

「信用できねんならいいよ。俺も危ない話は忘れる」

 変わらず黙っているソイルを置いてリーセルは部屋を出て行った。
 ソイルはリーセルの金への執着心を警戒していた。この部屋には監視カメラがあり、音声は拾えずともリーセルと言葉を交わすソイルを誰かが見ている。アロンゾに大金を積まれれば、リーセルはそちらになびきそうだ。もし、外と連絡を取ろうとすれば、取った相手がどうなるのか考えるだけで頭が痛む。あっさりと殺されたカルデロを思い出して、ソイルは口元を押さえた。大切な友達だった。裏切られたとしても、最後はソイルに警告をした。逃がそうとして撃たれた彼を思うとソイルは怖かった。もし、クラークやコリンが同じように殺されてしまったら。

「…絶対いやだ…」

 ソイルが力無くベッドに座ったまま両手で顔を覆い俯いた時、扉が開いた。リーセルが戻ったかと顔を上げようとしたが、それより先に名前を呼ばれてソイルは身を固くした。

「ソイル…会いたかったよ」

 穏やかに言いながらアロンゾがソイルのベッドへ近付き、隣へ腰を下ろした。ギシ、と重みを主張する音を聞いたが、ソイルは両手で顔を覆ったまま動かない。そんなソイルの肩を抱き寄せたアロンゾに、ソイルは両手を合わせて握りアロンゾの腹目掛けて振った。バシッと乾いた音がして、ソイルは痛みに眉を寄せてアロンゾを睨み付けた。一瞬は驚きを見せたアロンゾが、ソイルの首から伸びる鎖を強引に引っ張る。ソイルは強い力に引かれて身体が動かない。ベッドと足首を繋ぐ手錠が喰い込む。監禁された当初から暴れ続けて付いた足首の傷は包帯が巻かれているが、微かに血が滲んでいる。

「防弾ベストを着たままだった。ごめんな、手が痛んだろう」

 優しい声とは逆に鎖を引っ張りながらソイルの手にキスをするアロンゾにソイルは必死で鎖を引っ張り返す。残された足が痛み、ソイルが後方を気にした時、アロンゾはソイルの顔を思い切り叩いた。

「僕を見ろ!!」

 もう一度、同じ側の頬を叩かれ、ソイルは歯を食いしばる。
 アロンゾは強引にソイルの背中をベッドへ押し付け、のしかかった。捩れた足の痛みにソイルは呻き、きつく締められた手錠を揺すって足首を回した。
 なんとか捩れた足を戻した時、反対の脚が肩へ担がれるのをソイルは視界に捉えた。パジャマと下着が膝辺りまで下がられ、下半身がアロンゾに晒される。

「どうして大人しくできないんだ!」

 興奮した様子で怒鳴りながら、アロンゾの滾るペニスがソイルのアナルヘ無理矢理押し込まれた。慣らしてもいない、濡れることのないソイルのアナルがキツくアロンゾを拒む。ソイルは痛みに声も出せず、苦しげに眉を寄せた。
 アロンゾ自身も痛みを感じながら、それでも腰を押し付ける。アナルの淵が切れ、少しずつ血液が皮膚を伝った。

「お前が悪いんだよ、ソイル」

 アロンゾは両手でソイルのアナルを広げるように尻を強く開き、鼻息を荒くしながらペニスを全て押し入れた。ぎちぎちに締まるアナルに文句を吐きながら、アロンゾの手がソイルの尻を叩いた。

「ぅあ"っ…いってぇよ!」
「黙れ!!」

 アロンゾは痛みに動けないソイルを鼻で笑いながら懐からいつものように注射器を取り出した。そして微かに怯えを見せたソイルに微笑むと歯でキャップを外して慣れた手つきでソイルの太ももへ針を刺した。

「い、や…やめ、ろっ」

 その中身が感覚を緩くさせ、神経を敏感にさせる不快なものだと知っているソイルは不自由な身体を捩って暴れる。その動きは小さく、抵抗と呼ぶには可愛いものだった。






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