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 ソイルが消えて3日。モーテルで死んだカルデロはコリンが弟だと偽装して引き取り、島で埋葬の許可を得た。ソイルを捜していたクラークだが、完全に手掛かりへと繋がりそうなものを失っていた。
 カルデロを銃殺したと思われる犯人が郊外の森で首吊り死体となって発見され、殺害に使用された銃の所持が確認された。警察の警戒も薄くなり、物取りの犯人が自殺したと片付けられそうだ。港も街も、賑わいが戻り、事件の噂がちらほらと聞こえる程度だった。

「クラーク、どうする?もう、船も自由だぜ。探すなら急がねぇと」
「…もう島にはいないかもな。飛行機は昨日から飛んでる」

 港のオープンカフェでアイスコーヒーの水面を眺めながらクラークは拳を握りしめた。コリンは色々と思案して、とりあえず行動しようとひと息置いて優しく声を押さえて言った。

「ソイル、ただの誘拐か本当に強盗にあったのかもしれねえよ?」
「可能性は無いとは言えないな…ソイルの逃げ足なら案外無事かも。一度屋敷に戻ってみようか」

 クラークは表情こそ変わらず声も暗かったが、考えは前向きですぐに立ち上がった。コーヒーグラスの下に代金を置いて店を出る。2人はすぐに停泊してある船の元にも向かった。少し離れた位置にあるソイルとカルデロが乗ってきた船は変わらずに停まっていた。
 コリンはひょいひょいと足を掛けて船に上がり、エンジンをかけた。一向に上がってこないクラークを呼んだが、返事もない。コリンは船の上からクラークを見つけると首を傾げた。

「何してんだクラーク!」

 クラークはもうひとつのボートに乗り込みばたばたと駆け回っている。コリンはまさか船内にソイルが居たのかと、身を乗り出して様子を伺った。なかなか出てこないクラークに焦れたコリンはエンジンを止めてボートを降りた。

「…クラーク?」

 もうひとつのボートに上がり、座り込むクラークの姿にコリンは声を掛ける。クラークは丸めた紙クズをコリンへ放り、不安や怒りが混ざる視線を向けてコリンの反応を伺った。

「…探すな…?」

 紙クズを広げて書き残された短文を声に出したコリンの声は疑問の色を強く含んでいた。最後に残されたソイルのサインには似合わぬクエスチョンマークがふたつ。コリンは眉を潜めてクラークを伺った。

「サインにハテナは不自然すぎない?もし意味があれば何だろう。ソイルじゃない、とか?悪手…大悪手?」
「チェスか。ソイルは最近よくやってたな。いつもクラークに負けてた。良くない状況?」
「…アロンゾ・デズリィだ」

 断言するクラークにコリンは腕を組んで首を傾げた。どうして言い切れる?と視線が訴える。

「この紙クズはソイルを連れて行った後に置かれたと思う。追われながらメッセージは残せない。敢えてソイルに書かせている辺り悪趣味さからデズリィだと思うね」

 コリンはクラークの声に嫌悪の感情を感じ取り、ソイルの身を思って見知った筆跡のサインを触り目を閉じて小さくため息を吐いた。コリンはアロンゾとソイルの繋がりは触り程度しか知らず、いつからどういった立場で働いていたかまでは知り得ていなかった。だが、トバルコというロシアを拠点とする大物の手下でしていた仕事は細かく知っていた。共に仕事をしたことも役ある程だ。

「トバルコだったらメモなんか残さねえか。メモの代わりに死体だったかもな…」
「トバルコ程の人間にもなれば、ソイルひとりにそこまで執着も無いだろうしね。…執心は身を滅ぼす。アロンゾを探してソイルを助けないと」

 ボートを出て行くクラークの手をコリンは掴んだ。なに?と振り返るクラークに、コリンは眉を下げた。

「相手が相手だ。ソイルとアロンゾの繋がりは何だ?どうしてそこまで執着してる?金か?」

 コリンの真剣な様子と、対処の為にも黙っていては駄目かとクラークは目を伏せた。

「…ソイルはアロンゾに誘拐されて飼われてた。恐らく物心付いた頃から思春期前くらいの間、監禁されていた風だよ。詳しく聞けないけど、調べたらアロンゾはクソ野郎だ。子ども相手に欲情して、何人も餌食になっていると…」

 あまり興味もなかったアロンゾについて、ギロアから渡された資料を読んでいたクラークは言葉に詰まった。ソイルを頼むと言われたのに、とギロアの言葉や控え目な態度の中に伺える強い意志の様なものを思い出し、唇が震えた。しかし、ソイルが何をされているかと想像して悔しさに唇を噤む。

「クソ野郎を刑務所にぶち込んでやる!」

 コリンのいきなりの怒声にクラークは一瞬驚いたが、すぐに頷いた。

「よし、まずはアロンゾの居場所を見つけよう」

 コリンはクラークの手を離してボートを飛び出した。





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