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 船を進めてきたクラークは若い係員に止められて首を傾げた。警察官と思しき人間も多数うろついている。

「何の騒ぎですか?街へは行けます?」
「なんか殺人があったとかで、今は出られませんよ。お客さんたちも出られない状況に怖がってみんなホテルに戻ってます。お兄さん達も今は寄らない方がいいんじゃないかな」
「…観光客が?地元の人?」
「詳しくはまだ分からないんです。俺は船の発着をチェックするように言われてて…船を出させるなって警察に凄い剣幕で言われたんですよ」
「なる程。入るのも駄目なの?」
「いいとは思いますけど…危ない目に遭わせたくないし今日は様子見たら如何と…」
「友達が朝に来たんだ。心配だから頼むよ」

 クラークの真剣な様子に係員は端のスペースへ誘導し、警察の指示通り鍵を預かって記入用紙へサインを取ると事件があったモーテルを教え、気をつけて下さいと声を震わせた。

「ご友人探しでしたら、警察署に行かれたら早いかと思います。出られないので多くの方が宿泊施設に登録されているみたいなので」
「ありがとう」

 クラークとコリンは少ない荷物を持って足早に警察署へ向かった。

「ソイル達が乗ってきたボートもまだあったぜ」
「外に出ていないってことだ。早く見つけよう」

 いつもの賑やかな様子が無い港を抜けて街中へ行くと、警察官や戸惑う人々がちらほらと立っている。狭い島ではすぐに事件のことが広まったに違いない。クラークはコリンの腕を掴んで足を止めさせた。

「偽装の身分証持ってない?」
「は?!んな持ち歩いてる訳ねえだろ」
「…だよな。こんな中、二人を探すのは大変だから警察に入り込めたら楽だと思って」

 身内探しや情報を得たい人々で混雑する警察署を遠目にクラークは小さな溜め息を吐いた。コリンはそんなクラークと警察署を交互に見てからひとり納得したように頷いた。

「モーテル付近の人に聞くか。現金持ってる?」
「…金ね、八百くらい」
「俺が目を付けた奴に金握らせて聞いて来い。クラークは上手いだろ?誘導尋問みたいなこと」

 まあいいよ、とクラークはコリンから札を預かると裏通りを走り、捜査班が慌ただしく行き来するモーテルへ近付いた。
 数人が事情を聞かれている中、クラークはスーツをピシッとさせて人集りから少し離れた場所に立つ男に声をかけた。コリンの指示だ。
 一言二言交わしただけで慌てて戻るクラークに、コリンは眉をつり上げた。

「おい!ちゃんと聞けよ」
「まずい!被害者はソイルかカルデロかもしれない」

 クラークの低い声にコリンは息を飲む。どういうことだと続きを促すコリンを後目にクラークは現場保全をしている警察官へ駆け寄って行ってしまう。コリンは舌打ちを残してクラークを追った。

「すみません、友達がこのモーテルに来る予定でまだ会えてないんです。被害にあったのは誰か分かりませんか」
「え?あ、まだ公表してないんだ…悪いけど…」
「じゃあこれだけ教えて、ブロンドでぽっちゃりしてる女の子でしたか?!彼女、ひとりだったんです」
「いや、茶髪で耳や唇に幾つもピアスしてる若い男だよ。画家かな?たくさんの絵が部屋にあったって…友達じゃないと思うけど、警察署に確認へ行った?」

 クラークとコリンはカルデロだと確信した。さっと血の気が引き、クラークが頭を押さえる。コリンはクラークから財布を奪い、背中を叩いて走り出した。

「お前は警察署でソイルを探せ!俺は聞き回ってくる。1時間後に警察署で!」

 クラークは頷いてコリンへ背を向けると走りだした。嫌な予感など、予感でしかないのにクラークは誤魔化すように拳を握り締めた。どんな金庫を破った時より、警察官の張り込む銀行で偽造債券を金に換えたときより心臓は速く打っている。

「くそっ!」

 どうしてカルデロが殺された?と考えながらクラークは人でごった返す警察署に身を滑り込ませた。





 ガツっと足をぶつけたソイルは気持ち悪い覚醒に頭を振った。足をぶつけたと言うより、もの凄く狭い場所に入れられているのか足は軽く曲げた状態のため、伸ばせば壁に当たる状況だ。寝かされていると分かり、目を開く。ベッドの上だと瞬時に察した。茶色い木製の柵がぐるりと囲んでいる。

「っーーー!」

 ソイルは息を飲み、慌てて起き上がろうとしたが身体の動きが制限されている。視線をさまよわせると、両手は革製のベルトて手首が繋がり離すことは出来ない。また、手首のベルトの中心部から伸びる小さめの鎖は50センチほどの長さで首へ繋がっていた。

「え、…な、に…」

首に触れればそこにもベルト。首輪がされている。足首は片方だけだが、ベッドの柵に手錠で繋がれていた。



 



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