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 港にボートを近付ければすぐに管理者がやってきて誘導をしてくれる。数多くの船が所狭しと停められ、停船は少し慣れないと難しい。そんなときもこうしてプロが手伝ってくれる所はさすが観光地と言えた。

「やあ!お兄さん達最近よく見るね。あれ、そっちの人は初めてだ。どうです?諸島の自然は凄いでしょ!いい写真が撮れてますか?」

 日焼けした年配の係員が船を繋ぎながらソイル達に気さくに声をかけた。クラーク達が写真を撮るために周辺の島を行き来していることにしてあるため、ソイルは笑顔で挨拶を交わしたが、カルデロはどこかそわそわしている。緊張しているのかと、ソイルが和ませるように背中を撫でた。

「大丈夫だよ。話は俺に任せてカルデロは絵のこと考えてろ」
「…う、ん…」

 観光地へ二人そろってスーツ姿の男は珍しい。それを分かっているソイルは早々に港を離れて少し離れた街中へとタクシーを拾った。

「まずはここから。次はここかな」

 予定を話すソイルの隣で、カルデロは言われるがままに頷いた。話の端々で『ありがとう』と微笑むカルデロに、ソイルは笑顔を向けた。

「俺の方こそ」

 何度か頷き、ソイルの肩を優しく叩いた。





 昼を少し過ぎた頃には個展会場に出来そうな物件を二つに絞った。そらから昼食のために店に入ろうとソイルが提案したが、気分が悪いというカルデロに付き合って港の裏手にあるモーテルに部屋を取った。

「うぅ…ごめん」
「大丈夫か?大分緊張してたもんな。なにか飲み物買ってくる」

 腹減ったしついでに飯も、とソイルはカルデロをベッドへ座らせて上着を脱ぐとネクタイも取って屋台の並ぶ港の方へ向かった。
 島に渡ってから、一度も来たことの無かった観光地にソイルは目を輝かせた。島の伝統工芸品や装飾品、食べ物などもあまり馴染みのない物で興味を惹かれる。それでもソイルはカルデロの様子を気にして、炭酸水と軽めのサンドイッチを手早く買うと人の波を避けながらモーテルへ戻った。
 何の気もなく扉を開けて、ソイルは固まった。三人組のごく普通の男にカルデロが捕まっている。ひとりに後ろから首を締めるように押さえつけられ、両脇の2人は銃を手にしていた。
 ソイルが声を発するより速く、カルデロが涙声で謝罪を口にした。

「ソイル…ごめん…ごめんっ!俺、ごめんっ」
「アイツがソイル・フロストか」
「捕まえろ!」

 銃の2人がソイルに飛びかかる。ソイルは腕に抱えていた物を捨て、慌てて部屋の外に出ると扉を閉めた。

「カルデロ!!」
「逃げて!ソイル!」

 二人の男が扉を蹴破り外へ出てくる最中、逃げろと言われたが、助けなくてはとソイルが護身用に持っていたバタフライナイフを身構える。にじり寄る二人の銃口へ意識を集中しながらどうにかカルデロを助けられないかと思案する。そんなソイルに、カルデロが早く逃げろと再び叫んだ。それとほぼ同時程に、一発銃声が響いた。ドサッと重たい鈍い音がソイルの心臓を締め付けた。

「カルデロ?!」

 ソイルの声とは逆に、部屋の中からカルデロを押さえつけていた男が姿を現す。物取り程度が殺しまで?と考えてソイルは危機感が最高潮に達し、すぐに走り出した。部屋のすぐ前には何台か車が停められており、身を低くして間をすり抜ける。男たちもすぐに追いかけた。

「なに?今の音…」
「うわ、ドアが外れてるぞ!」

 銃声に驚いた近隣住民が次々に集まり始めた。
 ソイルはカルデロを助けなくてはと後ろを気にするが、すぐ後ろには先程の男が迫っている。今は逃げ切らないと、と歯を食いしばって港へ駆けた。銃声騒ぎに流れの変わった人混みから抜け、ソイルが船着場へ出ると三人とは別の二人組が待ってましたと言わんばかりに立ちふさがる。

「金は無い!」

 ソイルが何も持っていないことを示すように両手を上げると、後ろに迫っていた男が追いついた。荒い息を抑えながら相手の反応を待ったソイルの頭に重い衝撃が加わった。遠退く意識を捕まえられず、ソイルの頭を殴った後ろの男にそのまま抱えられた。

「お前から金は貰う必要ないんでね」

 モーテルでの騒ぎで人気の減った船着場から、ソイルは誰の目に留まることもなく持ち運ばれていった。





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