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 翌朝、コリンと飲み明かしたソイルはリビングのラグの上で目が覚めた。ブランケットが掛けてあり、それに顔を擦りながらソイルが起き上がる。ソファから足を落としたまま眠るコリンへ自分のブランケットを掛けてやり、ソイルは近いキッチンで顔を洗った。

「あ゙ー…やっべ、飲み過ぎた…」

 微かに痛む頭を押さえ、ソイルは眠たげな目を擦りながらシンクへうつかった。冷蔵庫から水を取り出したとき、控え目に背中へ声が掛けられた。

「おはようソイル」
「あーオハヨ、カルデロ」

 間抜けな棒読みはまだ眠たそうなソイルを体現しているようでカルデロはフフっと笑った。
 何か飲む?と訊ねたソイルから水を受け取り、カルデロは少し言葉を選びながらもじもじと声を絞り出した。

「…ソイル…昨日の話だけど…覚えてるか?」
「んん?昨日…あ、絵の話?」
「チャンスは欲しいしやっぱりお願い出来るかな。俺は口下手だから展示会とか…ソイルが手配してくれたらやれる気がする。クラークよりソイルが頼みやすくてさ。昨日怒らせちゃったし」

 申し訳無さそうに俯くカルデロの肩を叩いてソイルは頷いた。

「任せろって。クラークもなんだかんだで協力してくれる」
「うん…あれから、雑誌とかで会場に出来そうな建物や貸し部屋を調べたんだけど…」

 控え目に切り抜きや価格比較をファイルしたものを差し出したカルデロに、ソイルは驚いた。なんだ、やる気だったんだ、とカルデロを見つめた。絵描きとして、認められたいと思うのは当然だろうとソイルはファイルをしっかり受け取った。

「近くの街よりニューヨークとかに出展するか?」
「え?あ…いいよ、まずはこの辺りでやってみたい」
「そっか。明日辺りにでも場所を見に行く?」
「今日。今日は?行きたい」
「今日?!」

 随分やる気のカルデロに押されるかたちで、さっそく身支度を始める。シャワーを浴びているソイルの代わりにカルデロがサンプル用の絵を丸めていく。何やら騒がしい音にクラークが部屋から顔を覗かせ、首を傾げた。

「何バタバタしてるの?」
「あ、クラーク!少し街へ行ってくる」
「ソイルが?いきなりどうしたの?」

 クラークは外に出ることを渋っていたソイルが街へ行くと聞いて部屋から出ると、様子を見るためにリビングへ上がってきた。カルデロは何枚か絵を持ち、クラークに挨拶をした。ソイルはスーツを来て眼鏡を掛け、若いマネージャーを装った格好でネクタイを締めている。

「個展やってみるって」
「カルデロが?俺も行こうか」
「大丈夫だって。なんかやってるんだろ?それ」

 クラークが珍しくTシャツ姿にジャージである事をソイルは指差した。

「暇だからね。T社の無記名債券、偽造しようかなって。何時に帰る?」
「三時には一旦帰る」
「うん。今度はちゃんとするから心配しないでクラーク。…昨日はごめんね」

 時計を見てソイルと話すクラークにカルデロは頭を下げた。その肩をクラークは優しく叩く。

「頑張れ。カルデロの絵は凄いから、どんなチャンスも大切にな」

 クラークが後押しするように微笑むと、カルデロは息を詰まらせた。沈黙の後、うん、と俯く。そして先を急がすようにソイルの背中を押した。

「行って来ます」

 ソイルが手を振って玄関へ降りていく姿を見送り、クラークは桟橋の方へ視線を変えた。2艘のボートのうちひとつへソイルとカルデロが連れ添って乗り込むのを確認して、口元に笑み浮かべる。

「なんだか生き生きしてて羨ましいな」
「俺らも生き生きしようぜ。そろそろ何かしないと身体が鈍りそうだ。せっかくソイルと無期限に組めるのに」

 クラークの呟きに、あくび混じりに伸びをするコリンが笑った。

「派手なことは駄目だ。トバルコの一味はこの辺りにも居ただろ?気をつけないとね」
「あいつらはソイルなんて気に留めてねえよ。武器の入手ルートを調べてたろ?観光地は船も入りやすいからな」
「うん」
「…それより気になるのはアロンゾだ。あいつがソイルを捜してんのは間違いねえ。一昨日遊んだクラブの娘が持ってたクスリ、ルートをたどればアロンゾの手下の名前が出たぜ。近くに居るかも。金を渡してこの辺りの情報屋に調べて貰ってる」
「そんなこと分かるの?」
「俺がただ遊んでると思ったんか。ソイルのために少しでも安全は確保してやりたいだろーが。弟みたいに思うよ。利口で口も手癖も悪い可愛い奴だ」

 コリンの笑顔にクラークは頷き、街へ向かうボートを見送った。

「俺も後で行こうかな。カルデロの力になれればいいけど」
「んじゃ俺も。あんなやる気のあるカルデロを見たらなぁ」

 個展会場の目星を見ていたクラークは、昼過ぎまでには作業を一段落させることを約束して自室へ降りていった。その背中を見送り、コリンはソイルの残したブランケットを抱くと再びうたた寝に戻った。






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