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 智也は誰にも言えず溜まりに溜まっていたものを高島に打ち明けた。
 一つ上の先輩と付き合っていたこと。浮気されていたこと。それについて何も言えなかったこと。後輩のこと。自分の気持ち。

「はー、スッキリ!」
「随分消化不良が続いてたみたいだな」

 口を挟まずに聞いた高島は微かに笑っていて、智也は気持ちが軽くなった様子でカフェラテを飲み干した。

「絶対誰にも言いたくないし、言えないと思ってたから誰かに言えて超解放された。さんきゅー!」
「聞いただけだからお礼言われると困るけど。それにしても後輩くんは優しいね。拒否られても好きでい続けるって、すごい。羨ましい」

 ハンパなくウザいんだよ!と智也は言ったが高島は贅沢者だな、と笑った。

「あいつは確かに頭もいいみたいだし、優しいけどさー、しつけーんだ。俺はしばらく恋愛とかしたくないっつーの。悩み出したら止まんないって」

 カラカラとプラスチックカップの氷をストローで回してダルそうに言うが、智也は真面目で不器用だった。誰とでも仲良く出来る分、真剣に人と向き合って話すのは苦手な人間だ。

「それに傷つけそーだし…」
「傷つけられそう?話聞いた感じ後輩くんは智也を傷つけたりしなさそうだけど」

 その通りだと智也はため息をついて同意した。残っていたカフェラテを持って高島が席を立つ。携帯電話で時間を確認して、バイトあるから行くね、と智也の肩を優しく叩いた。

「俺のいつ終わるか怖くてたまんない不倫より、後輩くんの片思いに応えたいのに応えられないでいる智也の方が辛そうだね。また消化不良になったら話聞くよ」

 じゃあね、と爽やかな笑顔で店を出ていく高島をぽかんと見つめたまま智也はしばらく席から立つことができなかった。





 なんと言うことか、今日は帰宅時まで家の前に理玖がいて智也は立ち止まった。
 夏休みはよく自分の家に来ていた理玖が祖父母とも仲良くなるのは自然であり、今も祖母の道路沿いの草取りを手伝っている。

「バカじゃねーの、制服汚れるぞ」
「先輩!お帰りなさい」
「ともくん、バカなんて失礼よ。理玖くん手伝ってくれてありがとう」

 立ち上がって膝に着いた土を叩く理玖を見ていた智也は突き放すように言ったが、内容はそうではなかった。

「…話あるから、よかったら部屋来れば」

 ふいっと顔を逸らしてさっさとドアを開けて家に入った智也の後を、まるで飼い主の後を追うがごとく尻尾を振ってついていくように見える理玖に祖母は微笑んだ。





「はー…あっちい…手、洗った?」
「はい。おばあちゃんからアメ貰っちゃいました」
「安い奴。誰にでもそーなの?」

 特に深い意味ではなく、そう尋ねたが、理玖は瞬きを繰り返してから、違いますと口元でニヤリと笑って言った。

「先輩に振り向いて貰うためにやってるんです。安くなんてないし、俺は狡猾ですよ」
「…どーだか」

 買ってきた週刊誌を机に放ってベッドに座り、立ちっぱなしの理玖に隣に座るように示す。ばしばしとベッドを叩いてみせた。
 理玖はおずおずと隣に座って自分より5センチほど小さい智也をじっと見つめる。
 智也は足元を見ていて理玖と目が合うことはなかったが、理玖は隣の明るい金髪が顔を上げるのを静かに待った。






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