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「もう来んなって言ったじゃん!」
「なんでですか!納得できません!」
「知らねーよ!お前、駅使わねーじゃん!ガッコ逆だろ!」
「駅まで送ります!」
「毎日毎日アホかバカやろーーー!」

 競うくらいの速さで走りながら言い合っている大河内智也と江崎理玖は今日も朝から息切れしながら登校していた。





「…智也くん、最近暗いよね。服も手抜き」
「オシャレだったのに、どーしたんだろうねぇ」
「がっかりだよー」

 机に突っ伏したまま、智也は内心イライラしていた。女子の会話は丸聞こえで、どれも智也を見た目で判断していると取れる内容だった。
 今まで、そこそこのルックスと服や髪型で人目は引けたし、元彼の内田とも釣り合うと思っていた智也の考えは消え去った。今日は七分袖シャツにジーンズのサルエルだけで髪もセットしていない。どんなに人の視線を集めても、大事な人には見てもらえなくて、自分も何も見えていないと気づいたからだった。
 毎日無気力に過ごしているが、受験は迫る。すでに夏休みは終わっていた。
 朝はいつも家の前に理玖が待っていて、一方的に関わりを拒否した理由を聞いてきた。毎日ストーカーよろしく駅までついてくる理玖との競争で智也は朝から面倒だと毎日ぐったりとしている。 
 人と付き合うのが怖くてダルいと、生まれてから一度も思ったことはなかった智也だが、失恋の影響は大きかった。
 友達も多く、クラスでも人気者だったが、今は智也から発するオーラにみんな戸惑っていた。『近付くんじゃねぇ』というマイナスオーラだった。





 どれだけやる気がなくとも、時間は誰にも平等に過ぎる。
 とりあえず勉強しないと、県内の私立大学は三流もいいところで、親から国立を頑張りなさいと毎日言われていた。そんな実力もやる気もない智也は、参考書だけでも見ようと駅前の書店に入った。
 今までろくに勉強していなった所為もあり、何を選べばいいかも分からず結局週刊誌を買って外に出た。
 まだ暑い日差しも残る季節で、ため息か自然と漏れた。智也がカフェでアイスコーヒーでもテイクアウトしようと決めて顔をあげると、視界にクラスメイトがいた。
 高島泰助。彼は目立つようなうるさいタイプではないが、落ち着いていて気が利く人間だった。背丈は智也と同じく170越えるくらいで、よく遊んでいる女子たちから「高島くんも誘ってみてよー」と強請られているくらいには整った顔立ちをしていた。
 しかし彼は殆ど毎日バイトをしていて、なかなか遊ぶ機会が持てなかったことを思い出す。
 智也が何より驚いたのは、彼の隣にいた人物だった。高島の隣には大人の男性がおり、二人の雰囲気は甘い。周りには隠しているが、智也のゲイの直感から、高島があの男と『そういう』関係だと感じ取った。
 しばらくそちらを見ていたが、二人が名残惜しそうに別れた。智也がぼーっと見ていたので、こちらを見た高島と自然と目があった。

「た、高島!…っこ、こんなとこで何してんの?バイト休み?」

 内心の動揺がだだ漏れたったが、智也は高島に声を掛けた。彼は夜バイト、と短く答えた。

「…あー…なぁ、今の、身内?」

 不素付けな質問をしたと後悔して俯いて襟足の髪をいじっていた智也に高島は微笑んだ。

「暑いから取りあえずどっか入らない?」





 二人とも同じカフェラテを買って窓際のイスに座った。通りを行く人々は暑そうだ。

「…そいえば高島、俺のこと智也って呼ぶよなーみんなそう。そんな親しくない奴らもそうなんだけど、なんで?」
「オオコウチって呼びにくいからじゃない?俺はそうだよ」

 話題につまってどうでもいい話を振った智也に高島は笑って答えた。やはり、智也の仲間内のようにゲラゲラではなく、穏やかに笑う高島に見とれた。

「さっきの人、俺の好きな人。内緒にしてくれるよね」

 困ったように笑ってさらりと秘密を言った高島は、続けて智也の秘密を言った。

「智也も俺と同じ同性愛者だろ?」
「…うそ、なんで…?」

 絶対にバレない自信があった智也は、あんぐりと口を開いたまま微笑む彼を見つめた。

「なんとなく。最近元気ないけど、それの所為?」

 カフェラテのストローに触れる高島の指に視線を移して口ごもったが、内側に溜め込み、解消しきれない思いに疲れていた智也はポツリと彼に話した。





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