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「ただいま」

 想が挨拶と共に玄関を開けると革靴が一つ。
 もち太がすぐに駆け寄り、想はふわふわの首から身体を撫で回した後、靴を脱いで早足に廊下を抜けてリビングに入った。
 ローテブルに置かれたパソコンは点けっぱなしで、想が見たこともないボックスティッシュのような機械に繋がれていた。

「おかえり。早かったな」
「窓拭きしてたけど、古谷さんが来たんで途中で止めたんです」

 そのパソコン画面を覗き込んでいた想は、新堂に声を掛けられて顔を上げた。パソコンの前を離れてキッチンに立つ新堂の傍に歩んだ。

「いい匂い。ビーフシチュー?」
「そうだ」

 タブレットへ視線を落としていた新堂の隣に立ち、鍋を覗き込んだ想は微笑んだ。

「美味しそう!あ……漣、あのパソコン画面ヤバそう」
「そうか?」
「そうか?って、あれ、携帯式地対空ミサイルに見えたけど……」
「正解。まあ、俺は調達が役割だ。実動する訳じゃない。ギロアのためだ」

 想は鍋から新堂へ視線を変えた。
 不満そうな、心配そうな色を滲ませる瞳に新堂は軽く微笑む。
 嘘は無い。想は仕方なく頷いて手洗いを済ませて食器を戸棚から出した。

「ギロアさん、上手くいってるかな?」
「恐らくな。ギロアも始めから政府の犬より、今の民間組織で狼に成っておけば良かったろうに。管轄内だ外だって、口出しも手出しも出来ないなんて不自由は馬鹿らしい」
「ギロアさんにまた会えるかな?スノーにも会いたい。時々ハガキくれます」
「知ってる。スノーに気に入られてるよな」
「漣の、普通の友達と仲良く出来て嬉しいです」
「ふふ、可愛いこと言ってくれるね」
「若林さん以外にも友達がいてよかった」
「あいつは兄弟みたいなもんだ」
「ふふっ、確かに。中野さんとの赤ちゃん、めちゃ可愛いよ?漣も、もっとたくさん会いに行きなよ」

 新堂は口元を緩め、想の頭を撫でた。
 想はされるがまま身を寄せて新堂の肩に頭を預けて、少し迷って名前を出した。

「漣、……敷島議員て……知ってる?」
「協力してやろうか」
「……?!」

 何でもお見通しだ、と言わんばかりの余裕を見せる新堂に、想は小さく息を吐いた。

「力なんて借りなくても平気です。でも、悪い奴なのになんで……」
「金ヅルだからな」

 キッパリと言い切る新堂の表情は冷たい。敷島議員はその程度だと匂わせる。放っておいても、そのうち自滅していくだろうと。それでも、想は敷島議員に虐げられた人々の資料を思い出して眉を吊り上げた。

「議員も想たちも、俺の手の上で転がしてやっているだけだ」
「……意地悪」
「くく、お手並み拝見だな」

 どこか楽しそうに笑う新堂に、想も口端を上げる。

「なんか負けてる気がする。あーあ、……お腹空きました」

 新堂は頷いて想から皿を受け取り、自然な動きでそのまま触れるように唇を重ねた。

「漣、もっと」

 ほんのり赤ワインの香りがする唇が離れるのを寂しく思い、想は笑顔で新堂の首後ろへ片手を置き、自らそっと引き寄せた。




end,



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