◆恋とわがまま 10年後


 あたしの家庭はちょっと複雑。
 どう複雑かって言われると、一言では表せない。言葉を選ぶなら、「パパが二人」かな。
 気が付いた頃にはいつも母に怒鳴られていて、嫌いになりかけていた。そしたら知らない間にいなくなっていた。たぶんそれが離婚した時だったんだと思う。
 それと同時くらいにたいちゃんがあたしの傍にいた。たいちゃんはあたしの2人目のパパであり、親友。パパとは言っても、12歳しか離れていないから兄妹みたいかな。
 本物のパパには言えないことも、たいちゃんには言えた。
 パパとたいちゃんが友達じゃないことに気づいたのは5年生くらい。だってキスしてるのを見てしまったから。





「たいちゃん、今日何時まで仕事?」
「んー、バイトの人たちが休んだりしなければ5時だけど……どうかした?」
「学校終わったらお店に行くから、買い物一緒に行こ!」

 毎日お弁当を作ってくれる彼の背中に抱きついて.ぎゅっとしたら、優しく頭を撫でて、『分かった』とたいちゃんか微笑んだ。
 今年で28歳になるたいちゃんはあたしから見たら大人で、落ち着いているし、カッコ良くて、同世代にはない魅力たっぷり。

「ズルい。愛美ばっかり……俺とも買い物行こう。ね、泰助」

 身嗜みを整えてコートを着たパパがたいちゃんの作ったお弁当を持ちに来て、拗ねたように言った。
 たいちゃんは『ヤキモチ妬くなよ』と笑って、パパにキス。

「パパ、46歳の中年の嫉妬は醜いよー」
「必死な中年を苛めるなんて、なんて娘だ」

 あたしの頬にもキスをしたパパは笑ってた。
 そんな冗談を言い合えるくらい、パパとも仲良しでいられるのはやっぱりたいちゃんのおかげかも、なんて思う。









 放課後、駅ビルにあるイタリアンカフェに来ると、たいちゃんが店の入り口に置いてあるボードに夜のオススメを書いていた。
 ここで料理をしている彼。だから、家でもいつも美味しいご飯作ってくれる。

「みんな、あたし買い物して帰るから先行って、また明日!」
「あー、愛美は駅ビルで買い物してくの?」
「ううん、待ち合わせ。チカちゃん、キョーコちゃんバイバイ!」

 友達に手を振って、たいちゃんの方に小走りで近付くと、彼はすぐにあたしに気づいた。
 白いエプロン姿がなんか素敵。

「ごめん。今、斉藤さんが来たから交代するところなんだ。すぐ来るからいつもの飲んで待ってて」

 窓際の席にエスコートしてもらって、すぐにあたしの好きなキャラメルラテをスタッフのお姉さんが持ってきてくれる。

「すみません、頂きます!」
「高島さんの可愛い子ってあなたでしょ?高校生なのに手、出しちゃうなんて意外だなぁ」
「可愛いこ?」
「いつも可愛い子が待ってるから早く帰るって、なかなか飲みに誘ってもきてくれないんだもん」
「ふふっ可愛い子かぁ。あ、でもたいちゃんは高校生に手なんか出しませんよ。中年が好みなんです。あたしは娘みたいなもんなんですよー」

 あたしの言葉に目を大きくした可愛いスタッフの姉さんは、色々聞きたそうな顔をしていたけど、たいちゃんが出てきてタイミングを逃したのか、『お疲れ様です!』と頭を下げて奥へ行ってしまった。
 きっと明日、たいちゃんは質問責めになるに違いない。
 含み笑いを耐え切れず、たいちゃんのお尻を叩いた。

「さっきのスタッフのお姉さん、たいちゃん狙ってるよね!ちょっと爆弾落としといたから、明日が楽しみだねー」
「なにそれ?なんの話?」

 『えへへ』と笑って誤魔化し、腕を組んで駅ビルを後にして目的のものを買いに、たいちゃんを連れまわした。





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