「……俺でいいの?俺、わがままだよ」
「我が儘なんて言ったことないだろ」
「……わがままだよ。だって慶吾と居たいんだ。愛美ちゃんがいるのに、俺……愛美ちゃんに慶吾を取られたくない」
「はは、俺は愛美に泰助を取られそうで怖いけどね」

 そんなこと……と涙を拭いて泰助は笑った。









「ん、ん……けい、ご……はやく」

 ホテルにつくと何度もキスをしながら服を脱がし合い、ベッドに埋もれた。
 首筋に慶吾が唇を付けて、何度も愛の言葉を囁きながら身体中にキスをする。
 泰助は震える腕を叱咤して縋りついた。
 既に熱を限界まで上げているペニスに慶吾が触れ、指先を絡めてもどかしい刺激を与えられて身を捩る。ペニスへ愛撫しながらへそや内股に舐めるようなキスを繰り返されて泰助は悶えた。

「も、や……しつこいっ……!」
「可愛くてやめられない」
「んンッ……ぁ、う……っ!」

 自分のどこが可愛いんだ……!と悪態もつけず、鼻に抜けるような甘い声が漏れた。
 慶吾の舌がペニスの根元からゆっくりと先へ流れる。思わず見てしまい、泰助は真っ赤になった。
 そのまま先端を咥えて舌を絡めるようにされれば、腰から甘い疼きが全身に広がった。

「ぁ、んぅ……けいご、出る、口……」

 はなして……と言うより先に深くまで咥えて吸わてしまうと、耐えきれずに慶吾の口内へ射精した。出された精液を絡めた指がアナルへゆっくりと入る。

「……っ、けいご……!!」

 ジワジワとアナルから広がる快感を確実に拾い上げるような身体になっている泰助は、慶吾の指にあわせて腰が揺れるのを止められない。
 若い精は単純に絶頂を求めていて、もどかしく執拗な愛撫に息が上がった。

「はぁ、あ!んぅ……っ早く、入れてよ……!!」

 とろけた顔で睨まれて、慶吾はあまり苛めては可哀想かと思い、ゆっくりと指を抜いた。
 ペニスにコンドームを被せていると、泰助がそれを見て唇を舐める。
 普段はどこか我慢して、おとなぶっている泰助だが、セックスの時は本能に従順で高校生とは思えない色気が滲み出る。
 慶吾は、まだ子ども同然の泰助をこんな風に拐かしてしまったのかと思うと少し後悔してしまう。
 だが、それ以上に、健気に自分を待ち続ける姿は可愛くて愛おしい。たくさん愛して、安心させて、自分の腕の中で幸せを感じて欲しい。
 仕事に追われ、家庭の問題に向き合い、疲れていた慶吾は、泰助の存在にどれほど癒されたか分かっていた。
 少ない逢瀬にも文句を言わず、寂しさを隠してて笑顔を作る。
 そんな笑顔は忘れて欲しい。
 震える細い肩を、慶吾は強く抱きしめた。
 大人の強さを利用して、彼を自分のものにするような罪悪感は握り潰して。
 猛ったペニスが体内に入ってくると、泰助は甘い声で慶吾を呼んだ。









「たいちゃん来た!!先生、愛美のお迎えにたいちゃんが来た!」
「お帰りなさい。お父さんから連絡頂いていますよ。お兄さんかな?」
「あ、えーと……」

 泰助が言葉を探していると、言葉の達者な愛美が先に答えた。

「たいちゃんは愛美の大事な家族だよ!一緒に住んでるの!」

 さようならー!と先生に手を振る愛美の小さな手を握り、泰助は慶吾に対する『好き』とは違う『大切さ』を感じて溢れそうになる胸の温かさをしまうように一度目を閉じた。
 すぐに笑みを向ける。

「愛美ちゃん、ご飯何にしよっか」
「うーん………から揚げ!」

 目一杯悩んでからのリクエストに泰助は大きく頷いた。









 高校を卒業したら、と言う約束は繰り上がり、すでに三人でマンションで生活していた。
 泰助の住んでいた狭いアパートはいつ母親が戻るか分からないので適当に片付けて手紙を残して出てきた。
 泰助は登校日以外、愛美を保育園に送り、毎日迎えに行って慶吾の帰りを一緒に待つ。
 19時に帰る慶吾と入れ換えに20時から居酒屋に働きに出る泰助。お互いの時間は僅かだったが、幸せだった。

「今日、昼間の仕事の面接したよ。うまくいったら夜はみんなで寝れるね」

 愛美の髪を乾かしながら泰助が言う。

「愛美は次、一年生だからひとりで寝るもん!」
「えー!寂しいな……」
「ひとりじゃ寝れない?パパと寝ていいよ!」

 楽しそうなやりとりを、自宅で仕事の処理をしながら慶吾は見ていた。

「幸せすぎて怖いな」

 実際に恐怖などはないのだけれど。




end.
→10年後



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