「ねえ、ネコさん。野良って、どうなの?」

 深夜の公園、茂みに見つけた猫にマーリは声をかけた。しゃがみこみ、じっと茂みを見つめる。
 人気はなく、静かで暗い公園に、マーリは浮いていた。シャツにおろしたてのデニム、靴は無く裸足だった。

「…ねえ。ネコさん、動物以下のボクはどこで生きればいいのかな」

 闇夜に光る猫の双眸に、マーリは微笑む。笑っていれば印象がいい。

「…あ!行っちゃうの…さみしいな」

 ふいっと向きを変え、走り去った猫の姿にマーリは泣きそうな顔になる。それも一瞬で、マーリは立ち上がって茂みを離れた。

「んーん、んー、んー…」

 適当な鼻歌を歌いながら公園を出る。どこに行けばいいかも、何をすればいいかも分からない。マーリが知っているのはふたつ、マーリと呼ばれていたこと、霧丘のことが好きなこと。

「あ…粗大ゴミ?生ゴミかな」

 ふと、通り過ぎた看板へ再び戻る。マーリはゴミ捨て場を初めて目にした。綺麗にされ、意外といいかもしれないと、ゴミ置き場の隣へ腰を下ろした。膝を抱えて顔を埋めた。

「ゴミ」

 マーリは不安そうに呟いた。




 霧丘が目を覚ますと、ソファの上だった。

「くっ、…ちくしょう…」

 身体がギシギシと痛み、霧丘は舌打ちをする。ふと視界に入った手首に残る鬱血を見てギリっと奥歯を噛みしめた。

「マーリ!この、あほんだら!お前どこに隠れやがった!」

 ソファから叫ぶが、返事はない。霧丘がよろつきながら立ち上がると、己の首にかかるベルトがカチカチと鳴った。霧丘が邪魔くさそうに首輪を取ると、一枚の紙切れが挟まっていた。

「…ごめんなさい…って…あのバカ野郎。ふざけんじゃねえぞ」

 霧丘は痛む身体を叱咤し、慌てて玄関へ向かう。ふと視界に入ったテーブルには霧丘が手切れ金として用意した五百万が手つかずの様子で置いてある。玄関に靴はない。出て行く為に用意した靴や着替えはまだ箱に入っていた。
 それでも、玄関の鍵が掛かっていないところ見れば、マーリが出て行ったことが察せられる。

「…金も持たねえでどこ行きやがった…」 

 追い詰められたような顔のマーリが脳裏に蘇り、霧丘は考えるより先に身体が動き出していた。蹴飛ばす勢いで部屋を出ると、霧丘は暗い住宅街を走り抜けていた。


end.







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