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 後ろからされた後、想はまた抱き締めてして欲しいと強請った。くたくたになっているのに、心も身体もまだまだ新堂を感じていたかった。
 身体を密着させたまま、今もアナルへ新堂を受け入れていた。
 ゆっくりと性感帯を擦り、肌が触れ合う度に想は切なげに眉を寄せた。
 トロトロのアナルは厭らしい音を立てながら貪欲に新堂のペニスにしゃぶりつく。
 うわごとのように新堂の名前を呼び、行かないで……と繰り返していた想の腕から、不意に力が抜けた。
 新堂の背中一面を覆う仏神の刺青を抱きしめていた想の腕が、ゆっくりと滑り、ベッドに落ちた。

「想」

 名前を呼ばれた想は薄く目を開けたが、身体の熱さとだるさに、それ以上動けない。
 新堂は頬と首筋に触れて、そっと目を細める。
 締め付けるアナルからゆっくりとペニスを引き抜き、手近なタオルで想の下半身をさっと拭き取った。
 その間も、殆ど動かない想だが、新堂が後処理を始めて小さく腰を跳ねさせた。

「悪かった。無理させたな」

 指で何度も中へ放った新堂自身の精液を優しく出しながら内股や腰を舐め、跡を残すようにキツく吸う。
 微かな痛みの後に優しく唇でなぞられるだけで想は微かに甘い息を零した。

「動けない……ごめんなさい……」
「いや、俺こそ悪かった。想が俺の腕にいると感じで、つい」

 お互い、消えることのない欲求のままに身体を繋げていたが、薬で下げていた想の熱が再び高くなり始めている。
 明らかに情事や運動によるものとは異なる呼吸に二人は現実に戻された。

「口を開けろ」

 新堂が錠剤を口元へ運ぶと、想はそれを含んでミネラルウォーターを新堂に押し付けた。

「飲ませて欲しいです」

 新堂は返事もせず、想の要求のまま己で水を含み、唇を合わせた。
 ゆっくりと嚥下する想に合わせて新堂は水を送る。何度かそれを繰り返し、汚れて丸めてあったシーツの綺麗な端で口元を拭う。
 想は自分の願いをすぐに叶えてくれた新堂に微かな笑みを向けた。

「可愛い顔してくれるね。拭く物を持ってくる」

 下着を身に付け、シーツを丸めて持った新堂がベッドから立ち上がると、想は彼の手首を掴んだ。
 弱々しい力の手。想の唇が震えて、閉じられた目元は微かに赤い。
 新堂はベッドの傍らに跪いて手首を掴む想の手に唇を当てた。

「すぐ来る」
「……すぐって……?」
「30秒」

 子供のような想に新堂が真剣に答えると、想は眉を寄せたまま、小さく頷いた。
 手首が解放され、新堂は思い切り優しく額に唇を触れてから寝室を出た。
 いち、に、と心の中で数えていた想だが、それは10まで保たずに眠気に襲われる。
 必死で抵抗してみるものの、目蓋は重く、顔は熱くて身体は寒い。
 想は静かに意識を手放した。
 新堂が寝室に戻ると、ベッドにうつ伏せて眠る想の姿が目に入る。温めたタオルで身体を拭き、衣服を整えて額へ冷却シートを貼り付けた。

「……悪さしてなかったか?」

 仰向けになり、毛布を掛けられて微睡んでいる想の頬を撫でて新堂は言った。
 答えを求めたつもりはなかったが、想は小さく頷いた。
 新堂は髪を何度か撫でた後、リビングに放ってあったバッグからパソコンを持ち出して想の眠るベッドへ座った。
 同じく投げ捨ててあった携帯の電源を入れると、溜まっていた留守電とメールが山ほど入ってくる。新堂はうんざりした様子で再び電源を落とした。
 想が新堂の存在を探るように僅かに目を開く。
 それに気がついた新堂は座ったまま身体を寄せた。

「ずっとそばにいる。安心して寝ていい」

 新堂は『うん』と消えそうな声が唇から溢れた後、すぐに寝息を立て始めた想を優しく見つめた。
 傍らで小さな欠伸をひとつ。それから新堂はパソコンを立ち上げた。









 朝方、想は目を開けた瞬間身辺をまさぐった。
 隣にも上にも下にも新堂がいない事に慌てて飛び起きる。
 既に熱は微熱程度に感じられ、もつれる足を叱咤して想は寝室からリビングまで飛ぶように駆けた。
 キッチンには立ったままタブレット端末に視線を落とす新堂が見える。
 想は音が聞こえそうなほどホッとして、ゆっくりとキッチンに歩いた。

「おはよう。朝食はどうする?お粥でも作るか?」
「お、おはよ……!」

 端末から視線を上げた新堂に、想は飛び付いた。
 想を抱き止め、新堂がぎゅっと抱き締めると、小さな笑い声がこぼれた。
 ほのかに香る、タバコの香りに想が視線を落とすとキッチンの台には吸い殻がひとつ。携帯灰皿に潰されていた。
 視線に気がついた新堂が目を瞑る。

「そのうちまた禁煙するよ」
「そんな、別にいいですよ」
「……俺が止めたいんだ」

 想の髪に唇を寄せ、新堂は甘えるように顔を擦り付ける。
 始めは受け入れていた想も、耐えきれずに笑って制止した。

「漣、くすぐったいよ。……タバコ、どうしてまた?」

 新堂は想の腰を抱いてキッチン台へ抱き上げ、座らせた。
 想は胸に顔を埋めるように抱き着く新堂の髪をいじりながら、『伸びたね』と髪を指に絡める。
 なかなか答えない事に、言いたくないのだろうと察した想は、新堂の頭を優しく抱いた。

「切ってくれよ」
「え!?無理ですよ……美容師さんにお願いしたら。一緒に行きますか?あ、若林さんには会った?」
「まだだ。真っ先がここ。それに、今は手持ち無いんだ。無職だしな」
「そのくらい俺が出します……。そっか、もう……漣はヤクザじゃないですね。会社は復帰しない?」

 新堂は想の胸に身を寄せたまま笑った。

「する気は無い。しばらく自由にする」
「……漣は、もうずっと自由です。だよね?」

 想は新堂の頬を両手で包んで上げさせ、にこりと笑顔を見せた。
 立花全と言う見えない鎖を引く影は消え、帰ってきた新堂のやるべきことも片付いたであろうと、想は新堂を見つめる。

「……まだ作業が山ほどあるんだ」
「仕事無いんだから頑張れ!」

 はあ……と小さな溜め息を零す新堂に想は触れるだけのキスをした。

「想……しばらくこのまま居たい」

 想はすぐに頷いた。
 何度か啄むようにキスを繰り返し、想は新堂の髪を撫でる。
 どうしたいか、聞かれることの方が多かった想は新堂からの要求に胸が熱くなった。
 想自身、ずっとこのまま居たいとさえ心の中で感じ、瞳を閉じて胸の中の温もりを抱き締めた。









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