33
「はぁ、っ俺……漣がいない間……他の、人と……」
向き合って座り、お互いの頬に触れ、視線を交えた。
新堂は濡れて揺れる想の眼差しを優しく見つめていたが、ふっと逸らされた。
俯いた想から、頬を伝った涙がポツリと新堂の腕に落ちる。
「へえ。想はどんな風に誘うんだ?」
責める様子はなく、優しく尋ねながら新堂は想の口へ食べさせていた指を外した。
その手がゆっくりと鎖骨を通り、胸元を通って腰を撫で、内股に触れる。
びくっと震えた想の片尻を掴んだ。
「何度もした?」
相変わらず、責めるでもなく、怒るでもなく、優しく聞く声に想は唇を震わせた。
突然ひとり置き去りにされた怖さが蘇り、素直に答えてやるものかと眉を寄せて目をきつく瞑った。
「たくさん、しました……。俺、意外と、モテるんです」
嫉妬して欲しい。
そんな黒い感情と、呆れられて軽蔑される?という不安が混じりあう。
想は眉を寄せた険しい顔を上げた。
視線が交わり、想は新堂の反応を瞬きもせずに待った。不安ばかりが膨らむのに、目を逸らさない。新堂の肩を掴む手の指先がやけに冷えて感じていた。
普段からあまり表情を変えない新堂の視線が優しく細まる。
想はゾクッとした愉悦を大袈裟に感じて呼吸を忘れるほど新堂の瞳に固まった。
「よかったろ。俺は気持ちいいことしか教えてないからな」
ん?と優しく想の反応を伺いながら、新堂は想の腰を抱いて、濡れた中指と薬指をグイとアナルへ侵入させる。
想は膝立ちのまま新堂に抱き着いて身を寄せた。
「っぅ、ん……っ!」
少しの抵抗の後、指は奥まで埋まって新堂の指をキツく締め付ける。想の呼吸が乱れ、腰が戦慄いた。
「……入り口はなんとなく解れているが奥は固いな。想は女性と遊んだのか」
内に埋めた指をぐいぐいと動かしながら腰を支えていた手が想のペニスを握った。
新堂の指は想の感じる部分を知り尽くしていて、埋めた指の動きに合わせてペニスを擦られた想は僅かな時間にもかかわらずに達した。
声は無く、耐えるような荒い息使いが新堂の耳元に繰り返される。
新堂は己の愛撫で簡単に登り詰める淫らな身体にそっと唇を当てた。何も変わっておらず、大きな安堵が新堂の内側に広がった。
「早いな」
新堂はアナルから指を抜き、想の吐き出した精液を絡めるように更にペニスを扱く。
快楽に溺れさせ、押さえつけて己のものだと実感させることは簡単だ。
しかし、そんな欲望は見当違いだと新堂は理性を強く保つ。
誰かに触れられたと思うと居たたまれないが、それ以上に想を傷付けたと理解していた新堂は身体へも心へも深くへは触れず、想の感情を優先させようと優しく反応を待つ。
「っ、……怖い」
「ああ。大丈夫」
「……漣」
「ここにいるだろ」
「もう……いなくならない……?」
嗚咽に混じる弱々しい呟きに、新堂は濡れたままの手だと言うことも意識から消して想の身体を強く抱き締めた。
「ゔ、うぁ……!」
想は新堂の首に腕を回して抱きつき、溢れる涙で新堂の首元濡らしていく。
年甲斐にもなく、自分ではどうにも止められずに想は声を上げて肩を震わせた。
「……泣かせたくないのにな」
「捨てられたって……、あのジジイが、殺したのに、いつも、思い出してっ……!」
想の脳裏に焼き付く立花全の罵倒が、焦げ付きのように消えずに思い浮かばれる。
「……想があいつを?……そうか。ありがとう」
鼻水を啜る想の顔に新堂の笑顔が向けられる。
『ありがとう』
その言葉に想は涙が止まっていく。
鼻を啜りながら、想はどす黒い沼に同じように浸かっても沈まぬ存在に、自身を抱く腕に安心して身体の力を抜く。
「……ほんとは、漣のこと……怒ってた、のに。……なんで無理なんだ」
『おかえりなさい』と、想はぶっきらぼうに言った。
首へ絡めていた腕を解くと、新堂も合わせて抱いていた腕を緩める。
想は新堂の背中に腕を移動させ、強く引き寄せた。
背中はベッドに埋もれ、新堂は想の上になる。
「……ずっと漣を待ってた……のに、俺を好きって言う人と……」
意地から見栄を張ったことを正そうと、想が羞恥を抑えて言おうとした。
だが、新堂はその唇を塞いで舌を絡めた。
お仕置きと言わんばかりに強く吸われ、舐め回された想はキスに翻弄されて苦しい呼吸に目を閉じた。キスの苦しさは心地良く、焦げそうな程熱い。
やっぱり無理だ。この人以外、愛せない……。想は言い表せない感情をキスで感じていた。
もっと、欲しい。
その様子に新堂が微かに笑ったことを感じて、想は薄く目を開ける。
新堂の余裕な表情を見て、見栄など始めから見透かされていたと想は感じた。
キッと新堂を睨み付け、想は新堂の襟足を掴むと強く引き寄せて唇がギリギリ触れない距離で低く唸った。
「ん、……俺ばっかり必死でイヤだ……」
唇を離し、ふい、と視線を逸らせた想の顎を新堂は掴んで前を向かせる。眉を寄せ、消化し切れていない感情に戸惑う想を見つめて新堂が口端を上げた。
「俺の方が必死だ」
二本指の足りない左手が、想の濡れて冷えている頬を撫でる。
想はその手を握り、切断面に唇を添えた。
「漣が必死なんて信じられません」
ペロペロと手を舐めながら、想は新堂の下腹部へ手を伸ばす。布越しにも固くなっていることを感じて、心臓が大きく跳ねた。
そっとズボンをずらして直に新堂のペニスに触れると、期待に腰が疼いた。
大きく、熱を持つそれを想自身のアナルへ導く。
「……ど、しよ……」
「ん?」
新堂は促されるまま想の足を開き、ぬくぬくとアナル周辺に滾るペニスを擦り付けた。
想は甘い息を小刻みに繰り返し、腰を揺らした。
「も……想像しただけで……イきそう」
はぁっ、と艶めかしい吐息と共に細められた視線に、新堂は引き寄せられるように頷いた。
「漣じゃなきゃ……」
「俺も同じだ」
うん、と頷き想は両足を新堂の腰に回す。
新堂は促されるままひくひくと収縮を繰り返す想のアナルへ熱を埋めた。
← →
text top