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 近いのに遠くに感じるような、不思議な距離に鼓動の様な音を感じて想は静かに目を開けた。
 泣き過ぎて腫れぼったいまぶたに、再び目を閉じる。
 部屋は夜とは違い、カーテンを閉めていても何となく朝だと分かる薄暗さだ。
 想は、未だに背中に感じる体温を認識して、再び涙が滲んだ。
 縛ってあるから大丈夫だと安心して、意識を漂わせる。
 しばらくの間、微睡みながらゆったりと今の状態に満足していた想の手に、縛られて繋がる冷たい手が触れた。
 指を絡めて、きつく繋ぐ手があの頃と変わらずに冷たいことに、想は顔を歪めた。呼吸が乱れ始め、涙が溢れ出る。
 確かに感じるその感覚に、想は肩を震わせた。
 優しくその肩に唇を寄せる存在が、現実にある。
 お互いの手首がネクタイでがんじ絡めに縛られていても、気にならない様子で、想も指先に力を込めた。

「想。会いたかったよ」

 名前を呼ばれ、想は抑えきれなかった声を漏らした。抑えようとすればするほど、しゃくりあげてしまう。

「っ、う……っ、……」

 『ベッドの脇に薬と水がある』と言う穏やかな声に、想は視線をベッドサイドの小さなテーブルへ向けた。
 ミネラルウォーターのペットボトルと、解熱沈痛によく処方される薬が置かれている。夢の通り、服も変えられ、川の水臭さもない、いつもの石鹸の香りを僅かに感じる。
 新堂がしたと理解して想は目をぎゅっと閉じた。

「……手、解けって、言うかと……思った」

 新堂に背を向けたまま、想が呟いた。
 声は少し掠れて、乾いていることを実感させられる。

「小便の時は取って頂きたいな」

 拘束されているとは思えないほど穏やかな声で、冗談とも本気とも聞こえる言葉が耳元に囁く。
 想は微かに笑った。
 新堂がベッドに繋がれている手を動かしているのか、想へ振動が伝わる。

「取ってあげません」

 冷たく、短く言う想の後頭部に新堂は微笑み、縛られて繋がったままの腕で想の身体を抱き締めた。
 一瞬、呼吸を乱した想が僅かに枕に顔を埋める。
 震える呼吸を止めるように、身体を固くする想の首筋に新堂は触れるだけのキスをした。静かに想が行動するまで待つことに決めたようだ。
 髪に唇を寄せて、想を感じるように擦り付ける新堂の仕草に、想は嗚咽を堪えて握り合う指に力を込めた。









「……喉……カラカラ。目も……ぼやぼや」

 想は目元を指先で擦りながら呟いて、繋いでいる手の結び目を自由な方の手と口で緩めた。
 自然とほどけてネクタイが落ちると、跡が微かに二人の手首に残っていた。
 それを見た新堂は想の手首を包んで優しく指先で撫でた。
 本気で縛るような行動をさせた事に、新堂は深く反省していた。

「想、ただいま」

 未だに背中を向けている想のうなじへ額を押し付けて、新堂は言った。
 もうしばらくはこの状態かと思って、目を閉じた新堂の上に、想は馬乗りに体勢を変えた。
 想の素早い動きとは反対に、新堂はゆっくりと目を開ける。
 ぶつかる想の視線は少し濡れ、腫れぼったく染まる目元が見下ろす。
 怒りも喜びも混在するような不思議な色を放っていた。大きく、黒い相貌に、新堂は愛しさが抑えきれずに名前を呼んだ。

「……想」

 新堂は、出来るだけ全てを受け止めるように、己の色を抑えて優しく見つめる。

「……っ、遅いよ……怖かった……!」

 想は言い終わるや否や、新堂の唇にかぶりつくようにキスをした。
 新堂は舌を差し出し、入り込む想の舌を絡め取るように舐める。
 がっつくような想に新堂は自由な手で頬を撫で、キスに応えるように唇を合わせた。
 キスの合間の呼吸も、色気などなく、貪るような荒いものだ。
 新堂は飢えた狼にでも押し倒されているような気分で、それが想だと思うと心のどこかで僅かな安堵を感じた。
 想が新堂の事を渇望していたと分かる。

「っん、あ"むッ……!」

 がぶがぶと角度をかえて、唇を合わせては舌を絡める。
 お互いの唾液をどちらともなく受け入れた。
 想は濡れる新堂の顎を舐めて、顔をしかめる。

「髭、舐めにくいです」

 指先が少し伸びた髭を撫でた。

「急いで来たんだ。こんな成りで情けない」

 眉を下げる新堂に、想は自然と微笑んでいた。
 新堂の首元に顔を擦り付けて、彼のいつもの香りに目を閉じる。
 甘い声で小さく囁いた。

「漣なんてキライだ」

 言葉では反抗しながらも、想は緩む顔を隠すように首もとに顔を埋めたまま甘えた。
 新堂は片手で強く想の頭を抱き寄せ、ゆっくりと名前を呼んだ。
 想はゆっくりと名前を呼び返しながら、ちゅ、ちゅ、と啄むようなキスをゆっくりと繰り返し、お互いの服を脱がしていく。
 素肌に触れた指先から、熱が溢れ出るように全身を駆け巡った。
 新堂の片手が想の腰を撫でると、それだけで想はキペニスから先走りを溢れさせた。
 新堂はキスだけですでに固くなり始めている想の下腹部の存在に触れ、声を耐える彼の唇を甘く噛んだ。
 想は熱と欲を帯びた視線を伏せ、拘束してある新堂の右手を解いた。

「きつくして……ごめんなさい」

 くっきりと跡が残る新堂の右手首に舌を這わせ、想は俯く。
 新堂がその手の指を二本、想の口元へ運ぶと、想は睫毛を一瞬震わせて口へ含んだ。
 新堂が想の目を見つめたままその姿をじっと射抜く。
 その視線にさえ愉悦を汲み取り、想は腰を震わせた。
 ちゅくちゅくと、唾液を多く絡めてペニスを舐めるように深くまで指を咥えて舌を懸命に絡める。口端を伝う唾液を新堂が唇で拭った。
 新堂が想のスウェットパンツに指をかけると、想は腰をあげて脱がす動作に合わせて下着ごと脱ぎ捨てる。
 再び腰に戻った手を、想は自身のペニスへ導いた。

「ん、あ……漣、触って欲し……」

 口に指を咥えたまま、想はとろけた顔で懇願する。
 新堂は声にして答えることは無かったが、言われるまま想の濡れるペニスを包んで、焦らすように扱いた。

「ふぅ、ん……っん、ん」

 指がふやけるほど口の中で舐めまわし、吸い付きながら、もどかしい新堂の手淫に切なげに眉を寄せた。
 揺れる腰が厭らしく、新堂は無意識に唇を舐め、熱く滾る己の下半身を想へ押し付ける。
 ビクッと身体を反応させ、想は一層ペニスを濡らして甘い吐息を滲ませた。








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