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 想はもち太の揺れる尻尾を眺めながら、空っぽの頭に鞭を打つ。
 昨晩、西村と清松が襲われ、店にも侵入未遂する者が現れた。これからもっと関係のない人達に実害が及ぶ可能性が高い。
 関西ヤクザの袖川組にこれ以上好き放題されてたまるかと、リードを握り替えながら上手い対応を模索していた。
 ポケットで着信を知らせる振動が何回かあったが、想は無視していた。それでもしつこくかかってくるため、相手の名前を見ると、島津だった。

「なに?今、最優先のもち太の散歩中だから」

 それだけ言って通話を終わらせたが、速攻で着信が再び。
 鳴り続けるそれに、想は仕方なく出た。

「……なに」

 西室と清松が、『明らかに危ない関西のオヤジたちに想が狙われている』と島津に連絡をしていた。
 想は島津の話に相づちをしながら、遠回りで散歩コースを歩く。

「うん、そうだな……今からだと走って15分くらい。もち太もいるよ。ん、わかった」

 島津の呼び出しに想は応じて、もち太と一緒に市街地へ走り出した。









「よお。もちオ〜いいコだなぁ。めっちゃあったけえ」
「はぁ、はぁ……っもち太、ハンパない……っ」

 カフェテラスでブランチにベーグルサンドを食べていた島津は目を細め、締まりのない顔でもち太を撫で回した。
 もち太も彼に慣れているため、嬉しそうに尻尾を振って気持ちよさそうに目を細めている。
 想はもち太に合わせて走ったため、ヘロヘロだった。今にも抜けそうな腰を叱咤し、島津の向かいに座って、火照った身体を冷やすためにジャケットを脱ぐ。

「今日は冷える。風邪引くぞ。つーか、こんな時間に散歩って珍しいな。いつも朝方だろーが」

 12月も半ばを過ぎ、上着は必須だ。息を整えながら、言われるがままジャケットに再び袖を通して想は大きく息を吐いた。
 素直な想がいつも通りで、島津は鼻で笑った。

「腹減った。ひと口、下さい」

 承諾を得る前に、想は島津のベーグルにかぶりついた。
 島津が想の側頭部を叩く。

「やるって言ってねえよ!」
「んぐんぐ」

 美味しい!と親指を立てた想に、島津は呆れて苦笑いに変わった。もち太も物欲しそうに想を見上げている。

「もち太はタマネギ入ってるからダメ」

 想が申し訳無さそうにもち太を撫でると二人の足元に伏せて目を閉じる。
 パタパタと靴を叩く尻尾に想は微笑んだ。
 島津は残りのベーグルを食べながら、明け方の話を詳しく聞かせろと想の足を軽く蹴った。

「え……」
「西室の話だよ。あいつ狼狽えてて話がよく見えねえ」

 じいっと見てくる島津の視線に、想は一瞬古谷との事を見透かされたと思って青くなった。
 シマコの一件だと分かり、誤魔化すように西室と清松の話を聞いたまま伝えた。
 考えてみれば、例え想が誰かと寝たとしても島津は想を責めたりはしないだろう。むしろ、どうだった?と聞いてきそうだと、想は目を伏せた。
 新堂が消えてから、島津は想をよく合コンなどに誘うし、女も紹介してきている。想にその気がないと分かり、最近は無理に誘われることも無くなっていたが、どちらにしても島津は想を気にかけていた。
 それが、突然寂しさから思わずセックスしてしまったと聞いたら、どんな風に思うだろうか。
 想は振り払うように関西の袖川組がこの辺りをうろつき、自身を探していると話す。
 そして、真に袖川組が探している物が製薬資料であり、想の手元にあることを伝えた。

「ふうん……商店街でも、ヤクザ風な強面に店先で怒鳴られて怖いっつぅ悩みを最近聞くけど、それか。そんなに金になるもんなのか?その製薬資料?」
「わからない。青樹組の仕切る関東で、表立って破壊行為とかしないところを見ると袖川組の単独行動かな」
「さあな。けど、上も下の不祥事には意外と関わってるもんだ。それに、有沢を探している以上、危ないのは周りの人間だ。俺的には仲間に手を出されるのは正直黙れない」

 島津はテーブルに置いた拳をギリっと握り締め、それを睨みながら低く呟いた。
 想はうかがうように島津の顔を見て、控え目に言った。

「……袖川組を片付けるの、手伝ってくれる?」

 想は島津を強く見つめる。
 島津は躊躇なく頷いた。
 想はホッと笑顔になり、島津も口端を上げる。

「青樹組やその傘下が動けば衝突が怖い。だから俺たちが動くって事だな?」
「うん!若林さんと希綿さんにも協力してもらうけど、あくまで俺たちが袖川組とやり合うつもり。蔵元に機械関係頼めるかな?一番重要なんだけど」

 『おう』と島津は蔵元に連絡を取り始める。
 想は若林に会いたいとメッセージを送った。

「袖川組の上、庵楼会は袖川組が関東を荒らしに来てることは知らないって言い張って、誤魔化してるらしい。希綿さんの話だから間違いない。だから、言い逃れできない証拠を突き付けて、庵楼会を希綿さんに土下座させる。もし欲を言って良いなら袖川組を潰してもらう」

 想が考えた大まかな流れを話すと、島津はいけると思うと頷き、スマホにメモを取った。

「島津は凌雅さんに頼んで機材と車の手配頼める?凌雅さんは協力してくれるから」
「それじゃ、青樹組と岡崎組の二人の方は有沢に任せるからな」

 二人は頷きお互いの腕を軽く叩くと、カフェテラスから離れてそれぞれの分担の為に動き出した。







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