「はーやーと!委員会の後帰り飯行かねー?」
「え、え、あ…あ?」
「ヤなの?いいの?どっちよ」

 行くよ!顔を上げた隼斗に高岡は笑顔を向けた。高岡は頷いて、今日の議題を副委員長と話し始める。委員会に、人がまばらに集まり始める中、書記ファイルに視線を戻した隼斗はドキドキと高鳴る胸をぎゅっと押さえた。
 高岡がケンカしていた彼女と仲直りして3日、あれから一度もセックスに誘われないため隼斗からも誘っていなかった。
 そのため、まさか放課後に食事に誘われるとは思いもしていなかった。隼斗と高岡は頻回に身体を繋げているが、最近はささっと突っ込み、出す、そんな味気ないものだ。クラスでもほとんど会話のなかった二人だったが、何故かあの約束をすっぽかされた日から、高岡は隼斗によく話しかけるようになっていた。その日は彼女と高岡が仲直りした日だ。そして名前も下で呼び始めたのだ。

「うう…幸せ」

 隼斗の呟きは誰にもきこえていないはずだったが、微かに感じた視線に隼斗が顔を上げると副委員長とバッチリ目があった。
 副委員長の柴崎加奈子、隼斗をうさんくさそうな目で見ていたが、隼斗が困った顔でいると、視線を外した。高岡はモテるなぁと、隼斗は目を閉じる。開始の時刻になり、高岡がダルそうに着席を呼びかける。

「さっさと終わらせて帰ろうぜー。みんな協力よろしくねー」

 笑顔でどうしようもないことを言う高岡に、担当の教師は呆れて笑い、一年生たちはそんな雰囲気に和んでいた。




 ファミレスでハンバーグをフォークで切断しながら高岡は隼斗が緊張していることを感じて苦笑いを隠すように俯いた。
 隼斗は鯖の味噌煮を前に未だに固まっている。

「なあ、やだったらやだって言えばもう誘わないよ。ごめん」

 高岡が思い切って切り出すと、隼斗は慌てて首を振って箸を持った。

「その、俺…こんな風に誰かと学校帰りにどこかに行くこと無かったから緊張して…」
「はは!マジか!」

 頷きながら、鯖に箸を入れた。
 緊張は、そこではない。目の前に高岡がいて、隼斗に笑いかけている。それが問題だ。

「なんて隼斗はクラスで静かにしてんの。もっと出れば」
「無理だ。みんな俺のこと知らないんじゃないか」
「もっと目立てばいいのに」

 無理、と隼斗が小さく溜め息をした。高岡はそんな隼斗に微笑み、少し照れて言った。

「隼斗って今までに居ないタイプの友達だから、すげー癒される」

 その言葉に、隼斗は顔が赤くなるのを感じて俯いた。ドリンクバーのグラスに手を伸ばして誤魔化すように立ち上がった。

「高岡も何か持ってくるか?」
「一緒に行く」

 止めてくれ、と隼斗は内心思ったが高岡から距離を縮めてくれているよう感じて、どこかほわっとした気持ちに顔が緩む。
 ジョバジョバと緑の炭酸を注ぐ高岡の横顔は、格好よく、隼斗は視線を逸らした。見続けてしまいそうだったからだ。

「俺、メロンソーダめっちゃ好き」
「毒々しい色がいいとか言うんだろ」
「…さすが隼斗、よくわかったな!」

 笑う高岡が近くにいるだけで、隼斗は今まで辛いと思った片思いさえ忘れるほどだった。近付く文化祭について少し話したり、お互いのことを話したりしてゆったり食事を済ませて二人はファミレスを出た。

「あー久々に長居した。隼斗はどっち帰る?」
「あ…俺はこっち」
「んじゃ、ここで。また明日!今日は付き合ってくれてありがとな」

 カバンを肩についてかけ直す高岡に、隼斗は思わず手を伸ばした。腰あたりのシャツを指先で摘むように引いた。

「高岡っ、し…したい」

 隼斗は頬を真っ赤にして少しうつむき気味に、けれど軽いノリを意識して告げた。
 高岡は未だに彼女とはセックス出来ずにいると、先ほどファミレスでも笑い話として上がっていた。隼斗は高岡の返事が無いことに益々俯く。不意に、高岡の手が隼斗の二の腕を掴んだ。大袈裟なほどビクついた隼斗に高岡は小さく笑った。

「もう、隼斗とはしねーよ。ごめん…俺、本当に馬鹿だった」

 恐る恐る顔を上げて、隼斗はなんで?と呆然として聞いた。高岡は困ったような笑顔で静かに続ける。

「隼斗とは普通に友達としていたい。隼斗のこと好きだから、あんなの良くないと思って」
「と…も、だち」

 ポンポンと隼斗の腕を叩いて高岡は手を振って去っていく。隼斗は高岡の後ろ姿を見つめて立ち尽くした。『好き』と言われたのに胸が痛い。隼斗は高岡に振り向いて貰おうなどと、思っていなかった。けれど、少し期待した自分にがっかりする。

「好き、か…」

 これが普通だと言い聞かせて、隼斗は帰路についた。むしろ、邪魔な扱いをされないだけマシなのかもしれないと思う。隼斗は上を向いて深く息を吐いた。






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