五年後。


「ーーって言うのが俺の初恋話だよ」
「今でも好きなのか?」

 まさか、と隼斗は笑った。確かに高岡のことは好きだし、未だに格好いいと思うが、いつまでも初恋を引きずるほど幼くも、純粋でもない。
 隼斗は口元に笑みを浮かべて、自身をじっと見つめている向かいの男を見る。

「本当に…すごかったって事。地味な俺をクラスの中心に引っ張っていって、いつの間にか皆と仲良くなってた。文化祭も、体育祭も、三年の時は涙が出そうなくらい楽しかった。俺の高校生活を変えたよ、高岡は」

 隼斗はミネラルウォーターを飲み干し、ペットボトルを捻り潰した。

「たまにお客さんに『初恋の相手は男でしたよ』って言うとウケるよ」
「俺は初恋、幼稚園の時同じクラスの女の子だった」

 ふふ、と隼斗は笑ってフローリングに仰向けに寝転んだ。目を閉じるとそのまま寝てしまいそうなほど酔っている。
 毎日毎日、お酒を飲んで、タバコと香水にまみれ、嘘と金の中で1日が埋もれていく。

「なんか疲れた」
「スーツが皺になるぞ」
「脱がしていいよ。修司さ、俺としたいだろ。してもいいよ。ちゃんと慣らしてくれんなら」

 修司と呼ばれた男が立ち上がり隼斗の上に跨がった。スーツを脱がしながら、目を閉じている隼斗を見下ろして笑う。

「なんで俺がしたいって分かった?」
「…お前が入店してから半年経つけど、ずーっと俺のこと見てたろ。こんな初恋話に『詳しく聞かせろ』って部屋まで来たから確信した。男に興味あるんだろ」

 修司が黙り、スーツの上着を脱がしたところで手を止めると、隼斗は薄く目を開く。続きは?と目が尋ねている。

「隼斗さんは…いや、何でもない。マジでしていいの?」
「欲求不満、解消して」
「じゃ、遠慮なく」

 マジで?と隼斗が笑い、ワイシャツのボタンを外していく修司の指先にくすぐったそうに身体をすくめた。
 ノリに合わせてベルトを抜き始めたが、途中で止まる。修司は動かなくなった隼斗を見下ろし、シャツを開いて白い素肌に触れた。触れても反応のない隼斗は熟睡している様子だった。

「なぁ、覚えてねえの…?」

 修司は静かな寝息をたてている隼斗の首筋に唇を寄せた。耳元に近付き、隼斗の匂いをすんすんと嗅ぐ。修司はベルトを外してズボンを少し緩め、下着からペニスを出す。既に硬く、熱い自分のものをゆっくりと扱く。

「…はやと…」

 少しずつ速さを付けて高みへ導く間も、修司は隼斗を見つめていた。
 時折寝ている隼斗に顔を寄せ、首もとへキスしたり、匂いを嗅いだり。達する瞬間、白い隼斗の腹へ精液を出した。修司は、それを少しの間眺め、溜め息を吐くと側にあったティッシュで汚した部分を拭う。

「あのセーター、買ったばっかだったのに」

 修司はあの頃と変わらず、黒い髪に汚れていない手で触れた。
 平凡な顔立ちだが、特に悪い所もない隼斗は万人受けするタイプだ。
 高岡のおかげか、本当に高校の終わり頃は人目を引く存在になっていたが、修司は違う。それより前から隼斗に目を引かれていた。
 たまたま、サボリに最適な資料室に寄った時、時折先客がいた。隼斗と高岡の仲を知った修司は、一瞬ありえないと思ったが、何度か隼斗を見かけるうちに彼の想いを知った。独りで資料室の大きな窓から外を見る隼斗。視線の先は高岡長政。次第に修司は隼斗が気になって仕方がなくなった。目に涙を溜めてうたた寝していた隼斗に、思わずセーターをかけた。ケンカで汚れ、新しいものを買ったばかりだったが、無性に隼斗に引き寄せられて、そうしていた。
 クラスが違った上に接点など無い二人。特にそれ以外の接触はしなかったものの、やはり脳裏に焼きつく隼斗の姿が忘れられず、たまたま夜の街で隼斗を見つけた時は二度見していた。まさかホストになっているとは衝撃だった。大学に通っていた修司は追うようにバイトとして入店。静かで穏やかで、つかみ所のない隼斗だったが、修司にも親切だった。姉がホステスをしており、紹介でホストを始めたと聞いて益々驚いた。

「隼斗さんて…よく分からん」

 恋だの愛だの、そう言ったたぐいの話をまったく聞かないがゲイなのか。それとも高岡長政限定か。自分は有りか。
 修司は先程誘われた時、全身がたぎった。
 しかし誘った隼斗は爆睡しており、本気ではなかったとしか言えない。
 修司はすやすやと眠る隼斗を抱えると、ベッドへ運んだ。ワイシャツのボタンを留め、穏やかな寝顔を見つめてから部屋を出た。
 突然押し掛けたが、嫌がることもなく修司を部屋に入れた。修司は、もしかして誰でも簡単に入れて、誘っているのでは、と頭に血が上る。一瞬で酔って怠い状態など消え失せ、怒りにまかせてガードレールを蹴り付けた。
 修司は掴み所が無く何にも執着を見せない隼斗に焦れながら、五分とかからない自宅へ夜道をゆっくりと歩いた。




 すやすやと眠る隼斗はまだ気付かない。
 熱を帯びた視線、独占欲、恋慕、それらが自分に向けられていることに。
 

end




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