◆理想の子


「使えねぇな!起こせっつたろぉが!」
「そんなこと言われても、アタシだって仕事して来た身なのよ!」

 内田翔太は隣に寝ていた年上の彼女を退けると怒りを剥き出しにして怒鳴りつけた。
 散らかる衣服を身に纏い、すでに遅刻確定だったが午後からの講義を受けるために女のアパートを出る。

「ちくしょう!」

 去り際に扉を蹴飛ばし、足音も気にせずに階段を降りていく。
 駐車場で車に乗り込もうとドアを開けたとき、目の前の道路にとある制服を見つけた。
 相模大川高校、通称サガミというこのあたりでは私立の特進のさらに上ランクの公立高校だった。そして、それはお気に入りだった大河内智也という後輩を取られた相手の学校でもあった。

「ガリ勉め」

 内田は一週間程前、精神的に流されやすい智也の元を久しぶりに訪れていた。
 何回か接触してみると、動揺の中に拒絶が感じられて内田は無性に腹が立った。なんでも言う事を聞いていたくせにと。
 付き合っていた頃からあまりベタベタしてこない智也は、したいけれど男同士だから…と妙にそこを気にしている人間だった。
 確かに内田もホモはキモイとさえ思ったし、実際言葉にしたこともある。けれど、智也は何故か受け入れられた。
 小綺麗で、明るく、女の子に対しては天性的に甘え上手でかなりモテてる。そしてなにより頭は悪いが、感情が顔に出やすい智也は扱いも楽だった。

「あー…クソっ」

 内田は時計を確認して、取っている講義に間に合わない苛立ちからハンドルを叩いた。タバコに火をつけ、深く吸い込みながらイライラを収める為に目を瞑る。
 苛立ちの原因は分かり切っていた。智也だ。
 智也はいつも自分が同性愛者だとバレることを怖がっていて、人前でくっつく等とする事はなかった。逆に二人きりの時はやたらとそばに来て、それを面倒だと思う事もあった。
 内田は短気な方で時々手が出ていたし、酷いときは言葉で責めた。

『キモい』『ホモ』『インラン』

 内田が智也を黙らせる為の三拍子。これで智也は唇を引き結んで下を向く。この程度で泣くほど女々しい智也ではなかったが、性癖を気にしている分ダメージは大きかったようだ。
 それでも、飴と鞭と言わんばかりに優しく頭を撫で、ローションを多めに使ってセックスを楽しめば『好き』と控えめに訴えてきた。そして内田も『智を分かってやれるのは俺だけだ』と優しく耳元に囁く。智也は何度も頷いて縋った。
 正直、内田にとって女とのセックスの方が簡単で楽だったが、アナルセックスは癖になるものがあった。準備しておけと言えば、智也はしていたし、想像以上にイイ身体だった。

「しゃあねー…」

 内田は車で近くのコンビニに寄り、適当にスイーツを買ってから先程の女の元に戻った。もう学校は諦める。
 怒っていた女も、内田の甘えたような態度と、お詫びのスイーツに渋々部屋に入れた。

「なぁ、アナルしてもいい?」

 ベッドに座ってロールケーキにフォークを入れていた女が止まる。内田は床に座ってベッドに背預け、タバコを吸っていた。

「や、やだよ。痛いって聞いたし…病気になるって聞いたし…」
「ちゃんとすれば大丈夫だって。ゴムもまだあンだろ?」
「…い、や!」

 真剣に断る女に、内田はこれ以上はやめた。怒らせると追い出される。面倒だった。

「じゃあ3Pを撮影」
「…どうしたの?絶対ありえない。3Pはいいけど、撮影は無理」

 だよな、と内田は笑ってタバコを灰皿に押し付けた。女は朝のまま、下着だけでケーキを一口含んで笑顔になる。内田はケーキを取り上げ、唇を奪った。

「やだ、たべてるのに」
「しよ」

 本当は智也を求めていた。
 内田自身が顔色を伺う必要のない、王様のような気分になれる存在は智也だけだった。どんなに傷付けでも、要求しても嫌々ながら、結局言いなりに出来る。
 女の様に滅多に泣かない智也が泣いている姿は余計に内田を興奮させた。
 ふとしたときに内田は智也を泣かせた事を思い出す。まだ高校生だった頃だ。

「おい、智、吸ってみ」
「俺、タバコ嫌い」
「ほれ」 

 無理矢理押し付けると、智也は渋々吸った。それはタバコではなくガンジャで、智也のストッパーを外してやろうと友人から貰ったモノだった。
 お酒も入った所為かか、散々複数プレイを頼んでも嫌がった智也を、天国にぶっ飛ばして3P撮影に成功した。
 もちろん内田が撮影。ヤりたがっていた同級生二人がそれはそれは好き放題やった。
 安い駄菓子屋のお面を付けていたとは言え、智也自身は記憶が曖昧で、連んでいた先輩達に犯されたというのに誰にされたかさえ分からない様子だった。
 撮影したことは伝えていない。たたでさえそれから一週間、智也は学校を休み、連絡を拒否していた。そんな反抗にムカついた内田は女との時間を増やし、見せ付けた。
 魔法の言葉で智也を繋いで。




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