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鍵を閉める音が異常に大きく感じて智也は目を閉じて熱い息を小さく吐いた。
靴も脱ぎかけで玄関先へ理玖を押し倒して腹に跨ると、カバンを廊下へ放り投げた。
「理玖、好き。大好き。ありがと」
智也はジャケットを脱いで、理玖のコートを脱がせながら何度も言った。
理玖は真っ赤になって智也の言葉を聞いていたが、服を脱がす智也の手を優しく止めた。
「どうしたんですか。恥ずかしいです」
「なんで?いつも理玖は言うだろ」
「俺が言いたいです。それで、先輩にバカって言われたい」
「バカじゃねーの」
恥ずかしいことを真顔で言ってのける理玖の唇を智也が塞ぐ。
もう何度としたキスも、それひとつで身体が痺れるように熱くなる。
智也の舌が咥内を舐め回すと、理玖がその舌を追う。くぐもった声と水音、快感に酔う吐息が漏れる。
「は…ふ、理玖」
「…はい」
「あれ、言ってよ…『先輩しかいらない』って」
理玖に欲しがられる言葉を思い返して智也は鼻の奥がつんとなった。『お前を分かってやれるのは俺だけ』なんて押し付けがましい言葉じゃない。独占欲を剥き出しにされる少しの切なさと凄まじい幸福感。
智也は理玖に身体を預けて首もとに擦りより、耳を甘噛みして甘えた。
「…智也先輩しかいらない。先輩が好きで好きで苦しいです」
「俺も…こんな気持ちどうにかなりそう」
悲しくも無いのに涙が出てきて止められない。智也は感情の高ぶりについていかない身体に戸惑った。理玖が半身を起こして智也を抱き締める。
「理玖がいない俺なんて考えられないよ…」
少し身体を離してお互いに見つめる。数秒の後、智也が笑って理玖にキスをした。
「あんまエロい目で見ンなよバカ」
「え、エロい目…?」
「野獣みたいだったし」
すみません…と理玖が耳まで赤くして俯いた。
智也が理玖の首に腕を回して顔を上げさせ、頬をくっつけてぎゅっとする。
「ベッドいこ」
「はい…」
理玖に抱っこされる形でベッドへ運ばれながら智也は目を閉じた。夢でも理玖に会えますように。心の中で唱えた。
「先輩、俺学校行ってきます。先輩は昼前からですよね?ちゃんと起きて下さい。ご飯、お茶漬け出してあります」
「んん、ん…りく…もっとして…奥、がいいよう…」
「…先輩、寝ぼけてないで」
理玖は口角を上げて智也の額にゆっくりキスをした。それでもまだ完全に目覚めない智也の枕元に目覚まし時計を置いてやる。
「…愛ってよく分からないけど、こう言うことかな」
夢現の智也に愛の言葉を囁き、満足そうに理玖は家を出た。
end.
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