しん……とした真夜中、ガタンと物音が響いた。

「……ん?……はる……?」

 夏が終わり秋に差し掛かる頃の夜中、ふと想は目が覚めた。部屋は別だったが、無意識に春を呼ぶ。
 寝ぼけて寝返りをうったとき、下階から激しいもの音が聞こえ、次いで春の悲鳴が聞こえた。
 想は飛び起きて部屋を出ると怒鳴り声や罵声が聞こえる。父、清和の声も混じっていた。リビングをそっと覗くと、5人程の見知らぬ男と清和が対峙し、春は泣きながら男のひとりに捕まっていた。想は混乱しながら携帯電話で若林を呼び出そうと操作したが、つながる前にシャツの首を強く引っ張られて現場に放り投げられてしまった。

「想!!」

 清和が想に駆け寄ろうとすると床のラグに穴が開いた。男の独りが発砲したのだ。清和は男を睨み付け、想は驚いて固まった。

「動くんじゃねぇ!!次は血ぃ見るぞ!」

 明らかにヤバい男たちに想はパニックで微塵も動けない。父親に不安な視線を向ければ、静かにそこにいろ、と手で示される。

「有沢花を出せ。そうすれば娘、息子は見逃してやらんこともない。可愛い面した賢そうな子たちじゃねえか?あの女も極道の子だ。こうなると分かっていてうちの組の者、たぶらかしやがった」

 壮年で柄の悪い男が春の手のひらにタバコを押し当てる。

「きゃあぁっ!いやっ、ぱぱ……うぅ、たすっ、けて……」
「やめてくれ!花はここにいないんだ!」

 必死に男たちに伝えようとする清和の左太股に弾丸がめり込んだ。短く呻いてうずくまる。想は大きな音に驚き、耳を塞いでぎゅっと目を瞑った。
 母が若林の姉でヤクザの娘だとは知っていたが、今までこんなことはなく、この先も心配ないと若林が言っていた。若林なりに手回ししていたと子供ながらに利口な想は分かっていた。

「女がうちの若いのとよぉ、10億持って消えたんだわ。知らねぇなんて言わねえよ」
「娘、息子が身体使って一生かけてもそんなに稼げねえぞぉ!股開いても10、15年、あとは病気との戦いになっちまうぞ」

 下品に笑いながら春のパジャマのズボンを脱がした男が肌に触れた。
 春の目から涙が更に溢れる。想は震える身体に歯を食いしばった。

「娘にさわらないで、下さい!金なら五億くらいならすぐに用意できる!あとは待ってくれないか?花も探して真相を……」
「しゃちょーサン!そら金は頂きますけどね、待つのは無理ってもんだわ。5億、娘、息子、アンタも中身なら少しは価値がある。会社は岡崎組の邪魔で貰えんから、金と子供とアンタの命で有沢花の件はチャラってもんでどうですか?」

 そんな取引あるものか!と清和は怒鳴る。ありったけの財産も渡すと縋るが、男たちは元々そんな遠まわしに入る金より、身、ひとつで運べるモノを奪う気満々のようだった。

「うちの組も財政厳しいんでね、今すぐ盗まれた分工面しないと。有沢花が今出てこないなら、あんたの許可なんて求めてねぇんだわ。おら、お前らガキども連れて行け」

 ぐいっと後ろにいた男に立たされ、引っ張られる。想は意を決して振り向きざまに男の顎に掌底を喰らわせた。
 肩を引き、遠心力を加えて放たれた掌底が顎に減り込んだ。







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