「…言えた…!」

 立ち漕ぎでチャリを走らせながら、あとは理玖ともちゃんと話せばいいのだと自分に言い聞かせた。
 なんでそんな態度なのか分からなくてゴメンと謝らないと。なんでも分かる訳ではないし、智也自身ずば抜けて察しが良いわけではない。
 今までは理玖が優しく智也のことを受け入れて甘やかしてくれていたのだから、自身も向き合ってすれ違いなどしない関係になりたいと強く願っていた。
 街灯の下をすり抜け、自宅の灯りが見えた所で智也は叫んだ。

「理玖!!」

 家の前の道路に理玖が立っていた。
 智也は理玖が待っていたと思うと、自転車を停めるのも煩わしく感じて適当に放り出す。2メートルほど走って、迷い無く飛び付いた。

「先輩、おかえりなさい」
「…りくー」

 スーパーから先回りのために全力で走って来た理玖は、息を切らせながらも智也を腕に抱き留めて身体を強く抱き締めた。
 いつものように包むように抱きしめられた智也は目を閉じた。
 まだ話していないのに安心感に気が抜ける。

「ごめんな、俺がもっと頭良かったら理玖のこともっと分かるのに…」
「先輩はそのままでいいんです」
「…でも、理玖…」
「試験ぶちったから、なんて教師に言い訳しようか考えてて…俺の方こそすみませんでした」

 理玖は乱れた呼吸を整えながら答え、智也の頬に触れた。照れ隠しに少し俯いて控え目に智也を誘う。

「今日も、うちに来ませんか」
「もちろん行くって!」

 チャリ取ってくる!と投げ出した自転車を起こして、理玖の家まで並んで歩く。
 智也は横目でチラリと理玖を見た。落ち込んだ様子は消えたが、そわそわしているようで少し早足だ。いつもならだらだら歩く智也に合わせてゆつくり歩くのに。

「り、理玖…急いでんの?」
「早く先輩にキスしたい」

 ぶふッ!と吹き出した智也が声を抑えて笑った。

「どーせ誰もいないし…」

 真っ暗な住宅街、ポツリと並ぶ街灯から少し離れた場所で理玖のコートの袖を掴み、智也はそっと目を閉じた。
 理玖は智也の表情に頬を赤くしたが、腰に手を回して触れるキスをした。キスは触れただけで離れたが、理玖は智也を抱き寄せた。
 自転車を支えている智也が慌ててバランスを取る。

「ホントにすみませんでした。あんな態度して大人気ない…余裕がなくて」

 理玖が謝る理由が分からず、智也が思考回路に迷い始めた。大人気ないって、俺のが年上じゃね?と言おうとしたが、続く理玖の言葉に大人しく口を閉じた。

「智也先輩が『センパイ』のことを寝言したんです」
「え?!…ゴメンっ、頭パンクしそうだったから…」
「悔しいです」
「…はい?」
「俺も寝言で呼んで貰わないと気が済まない」

 理玖の予想もしていなかったセリフに、智也は呆然としてしまった。理玖は真剣だったが、智也は申し訳ないと思いつつも可笑しくて笑いそうになる。

「理玖ってときどき変なこと言うよな」
「よく言われます。でも嫉妬は普通だと思います」
「シット…あ…俺、ヤキモチなんてしたこと無い…。理玖は俺だけって安心してたし…実感してた。不安にさせてマジでゴメン…でも!俺は理玖だけだから。他のはミジンコ!」
「ミジンコは特に水中の食物連鎖にとって必要不可欠です」
「ぎゃーっ真面目にツッコむな!」

 智也は理玖の腕から抜け出して自転車に飛び乗ると、理玖のアパートへ漕ぎ出した。その後ろ姿に理玖は小さく笑い、後を追って走り出す。
 さて、どうすれば愛しい人の夢にまで影響出来るか、理玖は色々と思案した。
 後ろを振り返りながらゆっくり自転車を漕いでいる智也にとてつもなく心を揺さぶられて、理玖は走るスピードを上げた。






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